神鳴り
窓の外には、真っ暗な空。銀色の雫が横切り、そして・・・
走る閃光、轟く轟音。
「絹一さん、こちらどうぞ。」
柔らかく掛けられた声に振り向くと、一樹が二客のティーカップをテーブルに置くところだった。
「すみません、いきなりお邪魔して・・・。」
「いいえ、急な雨で大変だったでしょう。それに、俺のことを思い出してここへ来てくれたのなら嬉しいし。」
にっこりと微笑みながら一樹も窓辺へやって来る。
明かりの消えた部屋の中を時折稲妻が照らし出す。
絹一はもう一度外へ視線を向けると、静かに息を吐いた。
「下に一樹さんの車があったので、雨宿りをさせて貰おうと思って・・・。」
いい訳じみた言葉を一樹は頭を振って止めさせる。
「構いませんよ。それより・・・何かありました?」
「なぜ?」
問い掛けに、更に問いで返した絹一を一樹がそっと抱きしめる。
払われるだろうと思っていた行為に抵抗がないのを見て取ると、一樹はもう少し力を込めた。
「大人しく俺の腕の中に居る程、何に傷ついているんです?」
おそらく原因は『彼』だろうと予測をつけながらも、そう訊かずには居られないほど絹一は打ち拉がれて見えた。
「・・・鷲尾さんと、何か・・?」
躊躇いがちに尋ねてみれば、細い肩がびくりと震える。
さらりと揺れた髪を掻き分け一樹はそこに唇を落とした。
「話して・・・しまいますか?」
「・・・いいえ。あなたには話せません。」
首筋に甘い熱を感じながらも、絹一は否定を口にする。
そして目の前の胸をゆっくりと押し返した。
「あなたにも、誰にも話しません。」
「なら・・・」
キッパリと言い切った絹一に、一樹はもう一度腕を伸ばす。
「せめて安らぎと温もりだけでも、受け取ってくれませんか?」
銀の雫、走る閃光。そして轟く轟音。
圧倒的に闇の支配する空間の中。
ふいに寄せられた淡い誘惑に。
絹一は、そっと。
瞳を閉じた。