三行メール
店は定休日だというのに、一樹は、薄暗い店の中で、氷を入れたグラスを傾けていた。
客には出さないクリスタルガラスの器の中に、琥珀色の液体。
あおるように飲むには少々もったいないそれの、芳醇な香りを口に含みながら、数日前に恋人の携帯に送ったメールを思い返す。
最近忙しいようだけど、ちゃんと休んでる? 無理して永泉を困らせないように。
俺はこの間、いい抱き枕が手に入ったおかげで、よく眠れている。もっとも、抱かれ枕の方が好みではあるけれど。
荒い足音がして、入り口に体格のいい影が映った。足音は荒々しいままに一樹に歩み寄り、強引に抱きしめる。
一樹は小さく笑った。
「相変わらず唐突だな。永泉を困らせるなって言っただろう?」
時差も距離も、文字通り飛び越えて来た年下の恋人は、無言でなおもきつく一樹を抱きしめた。
一樹はお気に入りのグラスをそっとカウンターに置いてからその背を抱き返した。
ボスの我儘に手を焼く秘書が、ボスのタイムスケジュールを一樹に流して「お誘い」の限定とお膳立てをしていることなど、当のボスは知らなくていいことだった。