投稿(妄想)小説の部屋

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No.421 (2002/02/18 14:33) 投稿者:真城理

白雪姫14

「ちょっとあなた」
「はい、なんでしょうか」
 リネンを抱えて台所へ急いでいた忍は、掛けられた声に振り返り姿勢を正しました。
「喉が乾いたからお茶を飲みたいんだけどミルクティーを持ってきれくれない。葉っぱはアッサムで、砂糖抜きをよろしく」
「はい、かしこまりました」
 今日のお客様は長期滞在のターナーさまとそのお連れ様、それに有名なモデルのエマさまです。
「チーフ、エマさまからミルクティーのオーダーが入りました」
「ごくろうさま、忍くん。ミルクティーか、・・・ちょうど慎吾くんが今でてるんだよね。忍くん、頼んで良いかい」
「はい」
 軽食の準備をしている高槻さんの言葉に、忍は頷きます。忍が淹れる紅茶は、高槻さんのお墨付きがでています。なにしろお城で姫として暮していた頃に、教養の一環として先生から鍛えられ、毎日のように淹れていたのですから。
 手早く準備をして、ポットに湯を入れるとにエマさまの部屋へ向かいます。
 ドアをノックしようとした忍は、今日の朝までこの部屋に泊まっていた人のことを思い出し、ノックの手を止めました。
 二日間お泊りになったデュオさまは、今朝出立されてしまいました。また来るな、と出立際に声を掛けてくれた彼のことを思い出し、寂しい気持ちに襲われます。最初は怖い人かもと思っていたのですが、ミスをした自分のことを庇ってくれたり、忠告をしてくれたりと、実は優しい人だとすぐに気がつきました。
 本当にまた会えたらいいのに…溜息をつきそうになった忍はぶるぶると頭を振り、雑念を振り払いました。いくら親切にしてくれたとはいえ、相手はお客さま。仕事中に私情を交えるのは禁物です。
 いつもの顔を取り戻した忍は、変わらぬ手つきでミルクティーをいれました。
 一口飲んで、何もいわなかったエマに一礼して部屋を出ようとした忍は、ちょっと、と掛けられた声に足を止めました。
「これをあげるわ」
「え?」
 差し出された小さな箱に忍は戸惑いました。
「美味しい紅茶のお礼よ。こないだのバレンタインの時あげそびれたチョコレートなんだけど、食べてちょうだい」
「ありがとうございます」
「チョコレートは好き?」
「は、はい」
 大好物ではありませんが、少なくとも嫌いではないので頷きます。
「じゃあ、捨てたりしないで絶対食べてね」
 にっこり笑うエマから箱を受取った忍は、失礼しますと部屋を出ました。
「忍、お疲れさま」
「あっ、慎吾さん。帰ってこられたんですね」
 お客さまの忘れ物を郵送しに出ていたはずの慎吾に声を掛けられ、忍は振り向きました。
「うん。それよりもその箱、モロゾフのチョコレートじゃないっけ? お客さんからもらったの?」
「はい、エマさまから紅茶のご褒美にと頂きました。ところで、チョコレートってゴディバのことじゃなかったんですか?」
 モロゾフなんてたべたことありませんでした、となんとも無邪気でお姫様な返答に慎吾は思わず返事に詰まりました。
 その沈黙に首を傾げた忍は、
「よかったら、慎吾さん、差し上げましょうか? 俺、あんまりチョコレートとか食べないですし」
 知らない相手からもらったものを口に入れるんじゃない、そう怒ったデュオの言葉を思い出しそう尋ねます。ラベルはちゃんとついているものの、もらい物には違いありません。
「え? いいの? あ、でも高槻さんに報告しておかないといけないからなぁ」
「じゃあ慎吾さん、よろしければ高槻さんへ報告しておいて頂けますか。俺、今から外の水遣りしないといけないんです」
「分かったよ」
 妙に嬉しそうな慎吾に箱を渡し、それっきり忍はチョコレートのことなど忘れてしまいました。


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