プレゼント
「慎吾、そんな身体でどこに行くんだ?」
「…健さんと、約束…してんだ」
時計の針はp.m8:00を指している。まだ俺が帰ってないとでも思ったのだろう。
40度ちかい熱をだしていた慎吾を思い早めに帰って来てみれば…
向井健。
あの男のために、ふらつく身体のまま部屋を抜け出そうとしていた慎吾。
それほどまでに彼が大切なのか…
俺にとって彼の存在は慎吾の足を引っぱっているとしか思えない。
コンシェルジェとしてのこれからの慎吾の…
『過保護すぎるんじゃないのか』
以前そんなふうに言われたことがある。
『過保護』
その言葉の裏に『嫉妬』という意味も含めて…
俺は無言のまま慎吾を抱き上げ部屋へむかう。
大人しく身体をあずけているところをみると、そうとう辛いのだろう。
だが、
「貴奨…おろせよ」
「だめだ」
そう言いながらベッドへと慎吾を下ろし毛布をクビまで引き上げ、片手で慎吾の身体を拘束する。
「なん…でだよ、健さんに…逢うんだ。だって今日は…」
「ん? 今日がどうかしたのか」
「……タイン」
その呟きを残し俺の腕の中で瞼を閉じてしまった慎吾の額にそっと手をあてる。まだ熱はさがっていない。
うっすらと紅色に染まる頬に汗ではりついてしまった髪をはらうように手で剥く。
『愛しい』
そんな言葉に心を支配された自分に息をのむ。
「俺は…」
『慎吾くんじゃダメなのか』
あの日、高槻の問いに答えを返さなかった。いや、返せなかったのだ。
例え戸籍上だろうとも、俺は慎吾の兄にかわりはない。
そして、この想いは抱いてはいけないものであること。
「バレンタインか…」
俺は慎吾の寝顔を見つめた。
「思いがけないプレゼントだな」
ならば、今日が終わるその時まで慎吾を抱き締めていよう。
そして時が過ぎたら兄としての俺に戻ろう。
St.Valentine's Dayが終わるまであと3時間30分…