思い乱れて…・続き
4 【逢瀬】
もうどれほどの時間を慧嫻の胸の中で過ごしているのだろう。
傍らに置いたグラスの中の氷はすっかりその姿をなくし、琥珀色の液体もその色をかえていた。
まるで昨日までの俺のように…。
どちらともなく日常会話のようにはじまるbody talkは離れている距離を一気に縮めようとしてるかのように激しくなるばかりだ。
「ありきたりの愛情表現だな」
「なら一樹、きみは俺に何を求めているんだ?」
「さあ…」
本当は、このままでいいんだけどね。
たまにこうして逢うのが…
忍に心配してもらうのも悪くない。
卓也に優しくしてもらうのも…。
なにより年下の男を翻弄させるのが一番楽しいかな。
味のしなくなった液体を慧嫻に飲ませ、今度は限りなくpureにちかいウォッカをストレートのまま口に含み慧嫻へと与える。
「これがいつもの俺」
そう付け加えて…
5 【自然な笑み】
香港から一樹さんが帰ってきた。
あきらかに以前とは違う笑みに俺の気持ちも安らぐ。
一樹さんの笑みは…その笑みは、俺にとって揺り篭のようなものだから。
「忍、ここに来て」
俺はふらふらと一樹さんへと歩み寄る。
「一樹、俺が座ってやるよ」
大きな二葉がいきなり一樹さんの膝の上に座った。
そうなんだ。卓也さんから受け取ったメモはしっかりと二葉に見られていて、今のはきっと宣戦布告。
「こら、重いぞ二葉」
「今後一切忍に触らないなら、どいてやってもいいぜ」
そう言ったかと思いきや、いきなり一樹さんの首に腕を絡める二葉。
「仲がいいんだな」
「卓也、そんなこと言ってないでなんとかしてくれない?」
「みんなに心配かけた罰だ。二葉、この際だからたくさんアニキに甘えるんだな」
困った顔の一樹さん。
でもその笑みはとてもやわらかで、それを見ている俺までも自然な笑みが零れてくる。
『やっぱり俺、一樹さんのこと…』
俺は心の中でそっと彼の笑みを抱き締めた。