投稿(妄想)小説の部屋

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No.407 (2002/01/26 16:36) 投稿者:月城 のあな

笑顔の理由 続き

 ゲボッ!!!
 飲みかけていたカクテルをふきだしそうになる。
 今桔梗はなんて言ったんだろうか・・・? そんな事を考えていると隣から体が反応してしまうような大声が上がる。
「ふざけんじゃねぇ!!!」
 叫ぶと慌てて忍の腕を力いっぱいに引っ張って胸に抱き寄せ、離れないようにしっかりと抱きしめる。
 忍はこんな状況だけが二葉の体と密着して、少しドキドキしてしまう。
 しかしその瞬間、今度はグラスに残っていたカクテルが勢い良くこぼれていく。
(あ!・・・)
 せっかく作ってくれたのに。と小さな水溜りになった場所を忍は寂しそうにみつめているが、二葉はそんな事に気づくことなく桔梗から守る事に神経が行っていた。
「まぁまぁ二葉。桔梗も本気で言ったんじゃないと思うし・・・な? そうだろ? だから、気持ちは分からなくは無いけど忍の事離してあげたら? ・・・お前が良くても、忍は嫌がってると思うよ」
 ね? なだめるような笑顔。
(良かった・・・離してもらえるんだ・・・)
 一樹が仲裁するという事は無条件で解決するような絶対の安心みたいなものがある。
 根拠なんてものは無く、あるとすればそれは一樹という人の人徳からきているのだろう。
「・・・嫌だ」
「ちょっ! なんでそうなるんだよ! 俺は今すっげー恥ずかしいの!! ・・・一樹さんは分かってくれるのに、どうして二葉は分かってくれないの・・・?」
「分かって無いのは一樹のほうだ! キョウが本気以外の事を言うかってんだ!」
 優しい二葉はどこかに行ってしまい、初めてであった時の、あの時感じた印象と同じ物を感じてしまう。
 卓也と一樹は何も言わないで様子を見ている。
『何もしない』のではなく『何かあった時のため』にだ。
 そんな事を知ってか知らずか、一番言ってはいけない一言を口にしてしまう。
「分かってるならいいや。二葉、忍貸して?」
「ほらな! だから言ったんだ!!!」
「明日1日だけでもいいからーお願い〜ね? ね??」
 二葉の怒りも気にしない笑顔でお願いをする。そんな姿を見かねたのか、桔梗を唯一どうにか出来る卓也が口をはさむ。
「おい、ワガママもいいかげんにしろ」
「イーヤッ! もう決めたんだもん! いくら卓也が言ってもダメだからね」
「・・・分かった・・・忍、明日一日こいつに付き合ってやってくれ」
「「は!?」」
 忍と二葉の声が重なる。2人は卓也にはどうしても逆らえないところがあるから、どうしても断ろうという気分にならないし、その事を知っている桔梗は手放しで喜んでいた。なんだかんだ言ったって自分は愛されてる〜なんて思いながら卓也に視線を投げかける。
「・・・そのかわり、今から言う事は絶対に守れよ? いいな」
「うん! どんな事だって守っちゃう♪ なになに??」
 あまりにも嬉しくてこれから言われる約束がどんなものか楽しみにすらなってしまう。
「明日から1週間、ローパー立ち入り禁止だ。分かったな?」
「えーーー!! 何それっ」
「何でも守るんだろ? あ、もちろん2人はいつでもこいよ」
 はい・・・。言いながらも桔梗には『卓也と離れる』事の次位に辛いだろうと思われる約束に、なんだか可哀想になる。
 忍のそんな気持ちを察したのか、気にしなくていいよ。という表情を一樹に向けられ、困ってしまう。
 あのね? と一樹はこう言った。
「一番可哀想なのは忍なんだからね?」

 どう考えても忍の機嫌が悪いのは自分のせいで、しかも桔梗は1週間のローパー出入り禁止令。
 それでも卓也には一緒に住んでるから毎日会える・・・ちょっと寂しいけど。
 でも一樹には会えないし、忍や二葉には会えたとしてもいつもみたいにローパーで楽しく過ごせなくなってしまう。
 それってとっても辛い事だなって感じる。
「・・・忍。ごめんねぇ〜」
「え!? お、小沼・・・?」
 突然の涙にさっきまでの怒りとか色々考えていたことが全部消えてしまう。
 それ以上に今目の前に居るあまったれた友人の泣きじゃくる姿の方が大事な事に思えた。
「お・・・俺、本当に忍と二葉の事怒らせるつもりじゃなかったの・・・ただぁ・・・うわぁ〜んっ!」
「ったく泣くなって。な?」
「ひっくっ・・・俺、忍が一樹に見せる笑顔が、好きで・・・俺にも見せて欲しいって、おも、思ってぇ。
・・・・ごめんね、二葉もごめんなさぃ ・・・許してくれないと嫌だぁ〜」
 泣くじゃくりながら2人の腕を掴んで離さない。
 ごめんなさい。
 体全体からその一言がにじみ出ている。
 それに二葉は桔梗を責めることが出来ないなと思っていた。
 二葉自身、忍の一樹に向ける微笑には嫉妬している部分があるからだ。いくら2人が恋人同士でも、一樹とは仲のいい兄弟でも、自分には向けられない笑顔を唯一向けられる人間だから。
 似たような事を桔梗も考えてたんだと思うとなんだか力が抜けてくる。
 許すも許さないもないさ。そういうと忍も頷く。
 桔梗にそう思われるなんてとてもうれしい事だったから。そんな2人をみて、桔梗は本当に嬉しそうな顔をして忍に思い切り抱きつく。
「忍、さ・・・やっぱ一番ずるいのはお前と一樹だわ」
(ってことは、世話を焼くやつが一番得って事かぁ?)
「は? 何言ってるの?」
 
 忍は『みんなに好かれて小沼はなんかずるいよ』とよく言う。
 けれど、そんな桔梗に誰よりも好かれているのは忍で、二葉や拓也にも好かれて、一樹には信用されて大事にされて・・・だからずるい。
 そんな忍の信頼を一身に受けて微笑をいつも渡される・・・だからずるい。

 けれど・・・
 それは誰もがみんなそれぞれに同じような事を思っているようなものだから。
「ずるくてもいいけど、これからもず〜っと!!! みんなで一緒に居なきゃ嫌だからね? 約束。しよう?」
 はにかむ桔梗の言葉に2人にも笑顔がこぼれる。
 ローパーに行くのはそれぞれがそれぞれを求めているから。そして、自分自身を満たして少しずつ周りに振りまいていく。

 1週間後に3人で一緒にローパーにいこう。
 初めは驚くかもしれないけど、
 なんにも無かったように笑いながら。
 大切な人達と、大切な時間を過ごしに・・・
 
 素敵な想い出を・・・

Fin


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