投稿(妄想)小説の部屋

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No.401 (2002/01/10 18:18) 投稿者:遠藤さや

「輝ける星」続き

 誕生日の当日の夜。
 ローパーなどですでにお祝いカードやプレゼントを抱えきれないほどもらってい、そんな客の相手を勤める一樹をおいておいて、三人はとにかく店を早く閉められるようにと卓也やスタッフの仕事を手伝っていた。
 店に積まれていく一樹宛のプレゼントをさっさとディアブロに詰め込みんだ後、店が終わった一樹の手をひっぱって、二葉と忍、桔梗と卓也は、しずまりかえった深夜の公園に来ていた。
「なあに?」
 うっすらとした微笑で、でも瞳を楽しそうに輝かせて一樹が尋ねる。
 だいたいの予測はついているものの、一樹もなにが起こるのか、
 何をやってくれるのか、面白がっていた。
「こほん」と咳払いをして、桔梗が両手を高く上げて、ポーズをつける。
「じゃ〜ん。今年のプレゼントで〜す」
 そういうと、自分の斜め前に立っている忍の背を、桔梗は勢いよく、どんっと押す。
 なにをされるかわかってはいたけれど、衝撃に「わっ」とちいさな悲鳴をあげて、一樹の胸の中に飛び込まされた忍が、ごそごそっと小さな紙袋を手渡した。
「あの、一樹さん、お誕生日おめでとうございます」
 一樹の腕の中から、忍が微笑みながら祝いの言葉を言う。

 この演出を考えたのは桔梗だった。
 自分の考えがとても気に入ったらしく、なんとしても忍と二葉の協力を強引に取り付けた。
 この演出を渋る二葉を、泣きまねと忍の高校時代の体育の時間の写真やら、中庭でうたたねしていたときこっそり撮った写真とかをあげるからっと交渉し、しぶしぶ納得させ、そんな二人にあきれた忍だったが、やっぱり桔梗の「一度決めたらてこでもうごかないもん」というのに勝てるはずもなく、しかたなく付き合うはめになり、そうしてこの「一樹を喜ばせる演出」は実行されたのだった。
「忍がプレゼントなの?」
 当然のように、腕をまわしてそのなかに忍をとりこんでしまうと一樹はとても満足そうに桔梗と二葉に笑いかける。
 二葉を見るとき、わざと、ぎゅうっと忍を抱きしめると、面白いように反応する弟の鋭い視線に
「わかってるよ」と苦笑して忍を手放して一樹がプレゼントの箱を開けていく。
 小さな箱で、少し幅の広い白いリボンがふわりと結ばれたシンプルな箱だった。
 はずしたリボンを、忍の指に器用にまきつけて、一樹は忍の背をそっとおして二葉のほうへと歩かせる。
 そして、箱のふたを開く。

 小さな箱の中から出てきたのは、小さなガラスの瓶だった。
 細工は非常に細かく精巧で、小さくても存在感を放っている。
 くすり、とわらって一樹が三人を振り返る。
「今年もなにか、仕掛けがあるの?」

 去年の「願いかなえますカード」のように、なにも中身のないこのガラスの瓶にもなにか意味があるの?

 一樹の笑いを含んだ問いかけに、二葉と忍、桔梗はにっこりと視線を交し合う。
「なに? なにを仕掛けてるの?」
 ますます楽しそうに聞いてくる一樹に、三人はにっこりと微笑む。
 そして。
「卓也っ。がんばって〜」
 桔梗の応援を合図に、のっそりと卓也が動き出す。
「すまないな、一樹」
 えっ? とした表情の一樹の肩をつかんで、膝の後ろに足をあてると、卓也はたいした力もこめずにくるんと一樹をやわらかい芝の上におし倒していた。
 なにがおきたのかわからなくて驚いている一樹の横に、桔梗と二葉と忍も同じようにねっころがる。
「一樹さん、瓶をもった手をこう、上にしてみてもらえませんか」
 忍が自分の両手を空に向ってあげる。
 忍と同じように一樹もガラス瓶をもった手を空に向けてあげる。
「・・・あ」
 東京の。
 それでも、人口の明かりに負けずに一生懸命輝いて地上へと光を放つ星たちが瓶の中に吸い込まれるように見える。
 細かい細工がされた瓶は星の光を、たくさん取り込むときらきらと輝きを増していく。
「きれいだね」
 小さくつぶやかれた一樹の言葉に、三人はほっと胸をなでおろし、横に無言で立っている、卓也の瞳もやわらかくなっている。
「あのねっ。あのね。空にある星のひとつひとつが、俺たちと、一樹の想い出なんだよっ」
「で、その瓶に詰め込んだら、すっごくきれいだろ」
「その・・・。俺たちは、とくに俺にとっては一樹さんと出会えたことは本当によかったって思っているから」
「一樹と俺たちの思い出はそれだけ、いっぱい輝いているってこと〜」
「本当ならダイヤモンドとかその瓶に入れればいいんだろうけどさ」
「それはさ〜。香港の人にでももらってよ」
「そうそう。俺たちからはもっと別なもん贈りたかったからさ」
 無言で瓶をかざしてその中に光る星を一樹は見つめている。
「・・・でも。宝石よりもなによりも、一樹さん自身が俺たちにとっては『輝ける星』なんです」
「だから〜。これからもいっぱい輝いて、いっぱい俺たちとも想い出、作ってね」
 ぎゅっと横から抱きついてきた桔梗の頭をぽんぽんとなでながら、一樹が小さく「ありがとう」とつぶやきが、三人に届く。

『今年は、成功かな?』
 桔梗が瞳で忍と二葉に問い掛ける。
 力強い二葉の微笑と、やさしい忍の微笑が、桔梗の瞳とぶつかって。
 それも小さな輝きに変わっていく。

 後日・・・
「ふうん。宝石を入れろと?」
「そうらしいね」
「一樹、なにが欲しい」
「別に」
「・・・」
「何が欲しいか当ててみたら?」
「・・・」
 くすっと笑って、年下の恋人を困らせる余裕が、幸せの証拠。

 そして。
 やがて。
 あまり大きくはないけれど輝きを放つ石が届く。
『とりあえずひとつ』
 そえられたメッセージの意味は。
 弟たちの気持ちと一緒で。
 これから、ずっと。
 ずっとずっと。
 ひとつずつひとつずつ。想い出を重ねよう。
 ・・・
 この瓶いっぱいに輝きが溢れるその日を。
 ふたりで。
 みんなで。
 あなたが輝く限り。


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