anxiety
あたり一面若草色に染まる草原に一人、吾は立っていた。
見覚えのある懐かしい景色…でも、何かが違う…
ここに居たのは吾一人ではなかったはず。
不安と闇に呑みこまれそうになりながら
ただひたすら何かを探し求めるるように唇だけが微かにうごく…
「…柢…王」
そう、吾はここに柢王と居た。
吾の肌にしみついた柢王の温もり…
吾の耳に残る柢王の声…
吾の瞳にやきついた柢王の笑み…
すべてはもう、吾の思い出の中でのことだというのか。
吾のこの心を癒せるのは柢王、あなたしかいないのに…
「…花…桂花…おい…」
「…柢王!? …どうして…」
「どうしてってなぁ、それは俺のセリフだぜ。幽霊でも見るような目して俺のこと見るな、って…」
「夢……」
ほっとしたその刹那、涙が頬を伝う…
「…どうした? …ん…情緒不安定だな。」
夢中でしがみついた柢王の身体から温もりが伝わってくる…
吾の探し求めていた柢王の声が耳元におくりこまれる…
柢王の笑みの中、全身で彼を感じられる幸せに吾はしばらく身をおいていた。
離れたくない、このままずっと…
柢王の指先がゆっくりと吾の頬にふれた。
「なぁ、どんな夢見たんだ?」
その問いかけに身体が強張る…
思い出すだけで身体が震える…
吾は黙ったまま、柢王から身体を離そうと身じろぎ、彼を見つめる。
「そんな顔すんなって。俺はちゃんとここにいるだろ…」
「…柢王、吾を一人にしないでください。絶対ですよ」
「ああ、約束する。絶対だ」
『絶対なんかないんだ』
桂花が叫ぶ日までそう遠くない日の出来事だった…