maybe
さらりと流れた長い髪が、頬にかかる。
それを指先で耳元にかけながら、絹一は自分を抱き締めて眠る男の顔を見つめた。
暗闇に浮かぶ穏やかな彼の寝顔は、今はその目を閉じているせいか、少し幼く見える。
だから、開かれた時の熱い、情熱的な瞳に見詰められると、自分はどうしていいかわからなくなる。
彼の瞳から、目が反らせない。逃げる事など出来ない。でも・・・
逃げるつもりも、なかった。今の自分には。
お互いに、もっと近づきたい。そう思って始めた夜だった。
そして、自分はやっと一歩だけ、彼に近づけた。
鷲尾を好きだと思う気持ちを、彼の、どうしていいかわからなくなってしまう程、熱い目を見詰めて伝えられた事で・・・
だから、夢でもいい。
絹一は、そう思った。
始めた時は、鷲尾に形にして欲しい、何時までも自分に対して、はっきりと気持ちを示してくれない彼の言葉が欲しい。そう、思っていた。
でも、今はいい。まだ、少しの間だけ、許してあげる。
深い眠りに落ちて行こうとした自分の、耳元で囁かれた甘い睦言。情熱的な、短い言葉。
幻だったのかもしれない。でも、それでもかまわない。
自分はその時、とても幸せだったから・・・
鷲尾の髪を指先でそっと梳く絹一の唇が、優しく微笑んだ。
・・・それから。
今は静かに眠るその愛しい唇に、絹一はそっと柔らかく封印をした。
今度は、自分が。
知らない振りをしていてあげるから・・・と。