投稿(妄想)小説の部屋

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No.368 (2001/09/15 07:15)投稿者:じたん

maybe

 さらりと流れた長い髪が、頬にかかる。
 それを指先で耳元にかけながら、絹一は自分を抱き締めて眠る男の顔を見つめた。
 暗闇に浮かぶ穏やかな彼の寝顔は、今はその目を閉じているせいか、少し幼く見える。
 だから、開かれた時の熱い、情熱的な瞳に見詰められると、自分はどうしていいかわからなくなる。
 彼の瞳から、目が反らせない。逃げる事など出来ない。でも・・・
 逃げるつもりも、なかった。今の自分には。
 お互いに、もっと近づきたい。そう思って始めた夜だった。
 そして、自分はやっと一歩だけ、彼に近づけた。
 鷲尾を好きだと思う気持ちを、彼の、どうしていいかわからなくなってしまう程、熱い目を見詰めて伝えられた事で・・・
 だから、夢でもいい。
 絹一は、そう思った。
 始めた時は、鷲尾に形にして欲しい、何時までも自分に対して、はっきりと気持ちを示してくれない彼の言葉が欲しい。そう、思っていた。
 でも、今はいい。まだ、少しの間だけ、許してあげる。
 深い眠りに落ちて行こうとした自分の、耳元で囁かれた甘い睦言。情熱的な、短い言葉。
 幻だったのかもしれない。でも、それでもかまわない。
 自分はその時、とても幸せだったから・・・
 鷲尾の髪を指先でそっと梳く絹一の唇が、優しく微笑んだ。
 ・・・それから。
 今は静かに眠るその愛しい唇に、絹一はそっと柔らかく封印をした。
 今度は、自分が。
 知らない振りをしていてあげるから・・・と。


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