LOVE LETTER
午後9時を回った頃の香港。
まだオフィスで仕事をしている男がいた。
「お疲れ様ですボス。」
自分の個人秘書である永泉がにこっと笑いながら言った。
慧嫻はパソコンの画面から顔を上げて、目頭を押さえた。
「もうこんな時間か・・・永泉、例の件はどうだ?」
「残念ながら順調とは言えません。くわしい報告は明日になりますが」
『表の顔』と『裏の顔』がある自分にとって1日が24時間ではまったくたらないスケジュールをこなす日々が続いている。
永泉は細やかな気配りでそっとお茶を出してきた。
普段は厳しそうな表情を崩さず隙もない男だが今は仲間にしか見せないやさしい顔をしている。
「仕事も一段落しましたし、お電話なさってはどうですか?」
「・・・・・」
2週間前の電話でまったく会えないことが理由で『電話だけしてくるな!』とケンカ別れしたことを知っているくせに・・・。
「実は一樹さんからお手紙が届いてます。ご覧になりますか?」
にこにこと永泉は楽しそうだ。
答えなど決まっているのにわざと聞いてくるのだこの秘書は。
動揺を気づかれないように短くああっと返事をする。
手渡されたのは箱だ。それにちょっと重い。
中を見ると一冊の本らしい。
これが手紙か? と思いながらも開けてみる。
次の瞬間には部屋には意味不明な悲鳴が響き渡った。(物が落ちる音もあった)
ドアの外にいるボディガードが扉を開けて入ってきた。もちろん手には拳銃をもっている。
全員がセフティをはずしハンマーが落ちているし銃口を向けかまえている。5秒とかからなかったので永泉はご満悦、右からベレッタM92F、コルト・ガバメント、コルトダブルイーグル、S&M・M19だなっと判断をしながら『なんでもない』とボディガードたちに退出を命じた。
慧嫻はページを進めるごとに顔色が悪くなっている。
最後のページには一樹からの手紙があった。
『お互い仕事があるし慧嫻が忙しいのはわかってる。これからは会えなくても我侭は言わないよ。手帳にでも俺の写真くらい持ってってくれ。でもたまには会いにきてくれる? 一樹』
(日本語で書いてある手紙だった模様)
「一樹ぃぃぃ〜!」
慧嫻の悲鳴も驚きも嘆きも当然かもしれない。
一樹からのアルバムには写真が50枚。1人で写っているものは18枚あり、酒を飲んでいたり笑っていたり髪をかきあげて色っぽいもの、手紙の横にはカメラ目線のものもあった。
他のものは客と話しているだけのものもあるが大半のものは誰か(←不特定多数)を抱きしめていたり、肩に寄りかかったり、口説かれていたりetc・・・
「永泉、休暇はいつになったら取れる?」
「はいボス。明日の夕方まで仕事をしていただければ12時間は確保できます。」
久しぶりに永泉が有能な秘書だと再認識した夜だった。