Truly
『今すぐ来て欲しい…君が必要なんだ…』
「…慧…」
一樹が受話器を手にして30分、始めて発した声だった。
電話の向こうの男は弱々しい声を出していたのだろう、独占欲まるだしの嫉妬深い男。だが、裏をかえせば寂しがりやの甘ったれと紙一重…
『…すまなかった。一樹…』
そして、吐息を残し切れた電話。
一樹はしばらく戻した受話器に手を置き一点を見つめていた。
「どうしたんだ?」
「…ああ、なんでもないよ。」
だが卓也は一樹に気づかれないよう受話器に置かれた手に視線を移す。
小刻みに震えている一樹の手、あきらかに同様している。
電話の相手は……
「…慧嫻…なのか?」
「…えっ…」
「電話の相手だ」
一樹はあいまいな笑みをつくり、返事を拒否する。
そして、受話器に置いた手をゆっくりとウォッカの入ったグラスに持ちかえ口元へはこんだ。
「もうよせ!!」
「心配しなくても大丈夫だよ。全然酔ってなんかないから…」
嘘をつけ…というようにカラになったボトルに目をやり、卓也はため息をついた。
「香港へは行かないのか?」
「…………」
「なんで逢いに行かない?」
「…………」
「一樹!!」
「…俺達は…そんな関係じゃ…ない…」
「なら、何を迷ってる?」
「迷ってる!? 俺が…!? ハッ!!」
恋愛感情に対しては、自分が真面目になればなるほど臆病になっていく
一樹…本人すら気づかぬうちに守りの体制に入っていく…
長い間そばで見てきた卓也には手にとるように今の一樹の気持ちが解る
…人を必要以上にかまう癖…
…心ここにあらず、だから強いアルコールにも酔えない…
いずれにせよ、慧嫻という男が一樹の中でその存在を大きくし始めたのは確かなようだ。
それならば、もう何も言うまい。あとは一樹自身の問題だ…
一樹が結論をだしたら、卓也はそれに従う。無言のうちに結ばれた誓約だ…
「俺も飲むかな」
卓也は2本目のウォッカのボトルを開けお互いのグラスに注いだ。
「…肩、借りていい…?」
「…今更…」
「そうだったね」
自分には桔梗という恋人がいる。
だが彼とは別に放っておけない一樹という男は、ある意味桔梗よりも手がかかるにかもしれない。
卓也はヤレヤレという気持ちを押し隠し一樹の肩に腕をまわした。
そして、ごく自然とそれに答える一樹…いつものセクハラはどこへやら親友以上恋人未満の一樹と卓也。
だが、今夜くらいは自分でも気づいてない寂しがりやのこの男をとことん甘えさせてやるのもいいかもしれない…
卓也がそう思ったのは一樹の肩にまわした腕に一樹の手が置かれ
「ありがとう…卓也…」
その言葉とほぼ同時だった。