義兄弟
俺がここに住むようになって半年。まだ、あいつとまともに話しをしたことがない…話すどころか顔だってまともに合わせてない。
「コンシェルジェって、そんなに忙しい仕事なのかよ!!」
貴奨は俺が寝たあと帰ってきて、起きる前に出ていくんだ…きっと。
朝飯食っただろう痕跡があるから、帰って来てるってわかるだけなんだけど…俺はぶつぶつ言いながらシャワーブースへ向かった。
「べつに…寂しいわけじゃない…」
これじゃ、1人暮しと一緒じゃないか! 血の繋がってない兄貴と同居なんか冗談じゃないって思ってたのに愚痴ってる自分に『はっ』として二の句を告がなかった。
明日、俺は公休日…さて何をしようかな…いつもだらだらと終わってしまう休みだけど、それでも予定だけは頭ん中でたててるんだ。
食料の買い出しに行って、部屋の掃除をして…
「ついでに貴奨の部屋も…」
俺の部屋に行く前に通る貴奨の部屋のドアをそっと開けて誰もいない部屋へ入る。ほんの少し貴奨の香がする…正確には俺と違うコロンの香かな。
「へぇ…綺麗に使ってんだ。ここの掃除はいらないか…でも、いつ掃除してんだろ…」
俺は部屋の主がいないのをいいことに奴のベッドへ大の字に倒れこんだ
「…貴奨…」
一人暮しが慣れてるはずなのに…
誰もいないのが当たり前の生活だったのに…
「おまえが悪いんだ!! 一緒に生活するならちゃんと帰ってこいよな。おまえしかいないホテルじゃないだろ…」
なんて愚痴ってる間に寝ちゃったみたいだ。誰かが呼んでる…誰なんだよ…うるせーなー…
「人のベッドで何してるんだ?」
「…えっ…うゎ〜貴奨…なんだよ、いきなり…」
「それは俺のセリフだ。」
「あっ、そっか…俺…」
ふと時計に目をやる、PM11:00…えっ!?
「早いじゃん」
「ああ、たまにはな。で、おまえはなんで俺のベッドにいるんだ?」
「…明日休みだから、ちらかってるようなら掃除でもしてやろうかと思って入ったんだよ。」
「シャワー浴びたその足でか…」
貴奨はまだ湿っていた俺の髪に手を差し込み指で剥いている。
いやらしい奴…
「やめろよ。」
「添い寝して欲しくてここにいたんじゃないのか?」
「なっ…」
俺はカーッと熱くなってく自分の体を叱咤した。
こいつと添い寝…なんでこんな奴と添い寝なんか…
そんなこと言う貴奨も変だけど、それに反応する俺もやっぱり変!?
「邪魔して悪かったな。じゃあ、おやすみ…」
俺はあわててベッドからおりようとした途端ベッドに引き戻されてしまったんだ。
「なっ、なにすんだよ!!」
「ここにいていいぞ。」
「えっ…」
「シャワーが済んだら添い寝してやる。」
「いらねーよ、そんなもん。俺はガキじゃないんだからな!!」
そう言いながらもふわりと覆い被さってきた貴奨の香には勝てなくて、つい、ぽろっと涙が…俺のバカヤロー…
「寝ろ…一緒にいてやるから…」
「…いいよ、おまえ明日だって早いんだろ…」
「明日は俺も休みだ。」
求めていたのは、兄の声…
探していたのは、兄の香…
その二つに包まれた今、少し素直な自分の心が涙となって零れ落ちた。
「ありがとう…貴奨…」
そんな言葉とともに……