投稿(妄想)小説の部屋

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No.332 (2001/08/09 02:46) 投稿者:ZAKKO

お芝居しようぜ!《赤ずきんちゃん編》

 昔々ある所に、『赤ずきん』という可愛い少女がおりました。
 ある日、赤ずきんは母親からおつかいを頼まれます。
正道「悪ィな。光輝の奴、何だか働きすぎの上に暑気中りで寝込んじまったらしくてさ…本当なら俺が行きてーんだけど(赤ずきんを演りたいんだけど)、年齢制限に引っ掛かっちまってさぁ…」
 母親は何やら訳の分からない事をブツブツとボヤきながら、赤ずきんに荷物を差し出します。
正道「どうせ食欲なくて料理とか食えないだろうから、コレ持ってってやってくれよ……親父のツテで手に入れた、超レアワイン♪」
 コレなら食も進むってもんだぜ! と、笑顔で渡された籐籠の中にはワインとパン、チーズが入っている様子です。
 初めておつかいを頼まれた赤ずきんは、自分が何だかとってもお姉さんになった気がして、大喜びです。
ちび慎吾「うんっ、わかった! これを、高槻さんのおうちに持ってくんだね? 俺、ちゃんと届けるよッ!!」
 赤ずきんは満面の笑みで籠を受け取ると、意気揚揚と出発しました。
慎吾「あ〜る〜ゥこ〜、あ〜る〜ゥこ〜ッ♪」
 元気よく歌いながら森を歩いていく赤ずきんの前に、ふいに狼が現れました。
健「おっじょおちゃんvそんなに一生懸命歩いて、ドコ行くの?」
慎吾「あのねっ、高槻さんのおうち! 俺、もうお兄ちゃんだから、一人でおつかいできるんだ!!」
 ニコニコと籠を掲げて見せる赤ずきんの無邪気な笑顔に、狼の食指が動きます……。
健「ふゥん、エラいんだな〜、お嬢ちゃん! ……でもまだこんなに明るいし、時間あンだろ? 俺とあっちのお花畑で、イイコトしねぇ……?」
 赤ずきんの前にしゃがみ込んですべすべのほっぺに優しく触れながら、色っぽく囁く狼。
 赤ずきんはその色香には惑わされず、小さく首を振りました。
慎吾「駄目だよ、俺、正道に『ちゃんと届ける』ってオトコの約束したんだもの…高槻さんだって、待ってると思うし…」
 自分の頬に触れている手をそっと握ると、赤ずきんは狼の目を見つめて言います。
慎吾「一人で寂しいの…? なら俺、おつかい終ってからなら、一緒に遊んであげられるよ?」
 こぼれ落ちそうに大きな瞳が、真っ直ぐに自分の目を覗き込んでくるのにドキッ、としながら、狼は立ち上がりました。
健「……優しいんだな。けどな、俺りゃ一人にゃ慣れてるのさ。また今度会ったら、遊んでくれよ。な?」
 目を細めて言う狼に、赤ずきんはにっこりと笑って頷きます。
慎吾「うんっ! 俺、慎吾って言うんだ。今度、絶対遊ぼうね!」
 大きく手を振りながら歩いていく赤ずきんを見送りながら、狼はこっそりと舌なめずりをしました。
健「気に入ったぜ、可愛いお嬢ちゃん……今度と言わず、今すぐ頂きたいモンだなァ」
 さっきまで優しげに細められていた瞳が、獣のそれに戻り、キラリ、と光りました……。

一方、赤ずきんはと言えば。
慎吾「あるぅ日、森のなっか♪ 狼さんに〜、出会〜ったァ♪」
 相変わらず元気に歌い続け、寄り道もせずにお婆さんの家に到着しました。
慎吾「高槻さん、いる? 俺、慎吾だよ!」
 ドアの前で、大きな声でお婆さんを呼ぶ赤ずきん。
 しかし、返事はありません。
慎吾「……高槻さん? 正道が、コレ届けてって……居ないのかなぁ?」
 いぶかしんだ赤ずきんが手を伸ばすと、思わぬ事にドアノブは抵抗無く回り、小さな音をたてて扉が開きました。
 どうやら、鍵はかかっていなかった様です。
慎吾「……おじゃましまぁす……」
 赤ずきんは一応挨拶をして家の中に入ると、台所や居間を覗いてゆきました。
慎吾「やっぱり居ないや…どこ行っちゃったんだろう、高槻さん…」
 赤ずきんはしゅん、としながら、とうとう最後の部屋――寝室のドアノブを掴みました。
 中に足を踏み入れた赤ずきんの目に映ったモノは……。
慎吾「あ…あれ? た…か、つきさ…ん?」
 ベッドに腰掛けて上半身裸のままタバコをふかしているお婆さんと、その横で皮をはがれてぐったりと転がっている狼の姿でした!!
慎吾「あれ? あれ?? えばた…さん???」
 動揺してあちこちに視線を泳がせる赤ずきんを見て、お婆さんがフッ、と笑みをもらします。
江端「何だ、慎吾か。どうした…?」
慎吾「ど、どうしたって、あの、その、えっと…?」
 オロオロとする赤ずきんの肩に、ふいに後ろから優しい声と共に、ほっそりと白い手が置かれました。
高槻「ふふ、どうしたの、慎吾君? そんなに慌てちゃって……」
慎吾「え? …あッ、高槻さん?! どうしてっ??!」
 猟銃を背負った猟師さんを見上げ、口をパクパクさせる赤ずきん。
高槻「ん? 最近この辺に狼が出るって噂だからね。可愛い慎吾君を守る為に…ね」
 にっこりと微笑んだ猟師さんは、『でも、必要なかったみたいだね』と悪戯っぽく片目を瞑りながら、赤ずきんの耳元で囁きました。
健「……え〜ば〜〜ァた〜〜〜ァ……」
 と、それまで死んだ様になっていた狼が、地の底から響いてくるかの如き声をあげながら、のそり…と身を起こしました。
健「テメーは今回、役ナシだろーがっ! 何しやがる、このクソヤロー!!!」
 牙を剥き出しにして威嚇する狼に、タバコの箱を放りながら、お婆さんは冷静な声で言います。
江端「おまえが高槻さんの事を『何となくニガテ』とか言ってるから、配役変わってやったんだろうが。何の文句がある」
 その台詞に、ワナワナと唇を震わせる狼。
健「ざけんなよ、どこの世界に狼を食うバーサンが居ンだ! バーサンは狼に食われるんだろ、ああ?!」
江端「……何だ? おまえ、俺が食いたかったのか? それとも高槻さんが……」
 最後まで言わせずに、狼がお婆さんの顔に枕を叩きつけた時です。
 大きな音をたてながら、部屋に飛び込んできた人物が約一名。
貴奨「慎吾、無事かっ?!」
 肩で息をしながら、銃を構えつつ叫んだのは……何と、また猟師さんでした。
 猟師さん2号は、赤ずきんの肩を抱いている猟師さん1号の姿を見て愕然としました。……狼とお婆さんの方は、全く視界に入っていない様子です。
貴奨「なっ…おまえ、何をしている、高槻っ? 猟師役は俺の筈だろう…!」
 赤ずきんのピンチに颯爽と現れイイ所を見せようと張り切っていた2号は、自分の見せ場を掻っ攫われてちょっぴり本気で怒っています。
貴奨「折角、珍しく美味しい役回りが……いや、ゴホゴホッ」
 赤ずきんがらみでついアツくなる2号を見やり、1号が冷ややかな声で言いました。
高槻「芹沢…それはおまえ、私が向井君に食われれば良かったって意味かい? それとも、私には老婆役がお似合いだ、って…?」
 ハッと我に帰った2号は、笑みの形になりながらも凍り付きそうな光を湛えた眼差しが自分を捕らえているのに気付き、絶句してしまいます……。
 また、ベッドの方では。
江端「……あれだけ鳴かせてやったのに、まだそんな元気があるのか?」
健「なっ…、テメっ、何しやがる! 離せってんだよ!!」
 枕を投げ捨てたお婆さんが、狼を自分の下にねじ伏せていたりします。
 あちらでもこちらでも修羅場が始まった光景を目にしながら、赤ずきんは一人呟きました……。
ちび慎吾「……大人の世界は、俺にはまだ解らないや……」
 ただひとつだけはっきりしている事。
 それは、このお芝居が大失敗だった……という事です。めでたしめでたし。


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