天使と悪魔
「忍、お待たせ…」
今日は一樹さんとデート…
俺の恋人は二葉なんだけど、兄のように接してくれる一樹さんは、二葉と別の意味で俺の心の中に存在してるんだ。憧れ…かな…俺って一人っ子だから…
「あの、一樹さん…」
「ん!? …ああ、二葉なら昨日から仕事だよ。」
「はい、知ってます。急に仕事が入ったって携帯にメールが…それでのこと誘ってくれたんですか?」
二葉はモデルなんだ。男の俺から見てもかっこいいと思う…
ハーフっていっても、日本の血より外国の血のが強いみたいで、野性的なかっこよさ…これには別の意味も含まれてたりして…
「何、あかくなってるの!? 忍…」
はっ、俺ったら二葉のこと考えて…
あ〜あ、見抜かれてるだろうな…一樹さんは、ほんの少しの仕草や言葉だけで全部わかっちゃう人なんだ。
気持ちを上手く表現できなくて、1人で抱え込んじゃう俺にとって安らげる人なんだけど、こういう時はちょっとね…
「忍はかわいいね。やっぱり俺のお気に入りだな…」
「はっ、はい…ありがとうございます。」
「緊張しないでいいよ、二葉や桔梗と違う君が早くから側にいたら俺の人生もかわってたのかな。」
コーヒーカップの淵を指でなぞりながら俺をじっと見てる一樹さんの瞳は妙に艶めかしくて…
「俺も…もっと早くに一樹さんと逢っていたかったです。」
なんて、二葉に知れたら俺自身がやばい立場になってしまうようなセリフをはいてしまった。
でも、本当にそう思うんだ。一樹さんだけじゃなく二葉や桔梗とも早く出会っていたかった…
双谷で知り合うなんてむりだけど家が近くて幼馴染みだったら…
カップを口元にはこんでる一樹さんをチラッと上目遣いに見て、一樹さんもかっこいい、というよりビスクドールのような繊細な美しさ、こんな表現が似合うかななんて…実際にはスキンシップ過多で知り合った当初、俺はかなり戸惑ったけど
だって、絶対逆に見える。
うん、痴漢に遭遇したら俯いたままただ黙ってる…って感じなんだ。
酷い例えかたしてるな、俺。
「忍、これから何処行く?」
「あっ…えっと…」
「俺が決めていいよね…」
「はい。」
レジで精算すると、一樹さんはすぐに俺の肩をひきよせてきた。
いくら慣れてきたとはいえまだ店の中、それに一樹さんの存在だけでも注目浴びてるから、俺の全身は熱がでてるように火照ってる。
店を出てそれが一瞬のうちに凍てつく寒さにかわった。
目があってしまった…そう、モデル軍団の中の…二葉と…
「あらら」
…一樹さん、のんきなこと言ってないでその手を今すぐどけてください。
「忍、このあとの予定なんだけどね…」
歩く方向は二葉のいる方…
だんだん近づいてるのに抱いてる肩から手をどかしてくれない。
一樹さんの意地悪!!
「二葉がさ、予定より早く仕事が終わるからって電話してきたんだよ。忍、携帯のスイッチ入ってなかったの?」
「えっ…」
俺はあわてて携帯を手にして唖然とした…バッテリー切れだ。
うわぁ〜〜〜なんでこんな日に…また一つ二葉に怒られる理由を作っちゃったじゃないか!!
携帯にやつあたり…
「でも俺、家にずっとい…あっ…」
「ん!?」
母さんが長電話してた。店が休みだからって…もう、長電話は嫌われるよ。父さんも諦めないで母さんを怒ってよ…
俺のやつあたりは違うとこまで飛んでいる。
そうこうしているうちに俺達の目の前に二葉の姿が…
「サンキュウ、一樹…でも、肩組んでいいなんて言ってないぜ。」
「報酬だよ、当然のことだろう。」
『こいよ、忍』って怖い目の二葉が一樹さんから俺を引き剥がす。
このまま三人でデートってわけには…いかないよね…
「じゃあね、忍。このあとの予定は二葉が決めるから…」
って、優雅に去らないでよ。
俺は二葉の顔を見ることができない…
「俺とのデートじゃ不満か?」
「ちっ…違うよ…あの、あのね二葉、携帯のバッテリー切れてるの気がつかなくて、家の電話は母さんが使ってて…」
「んなこと怒ってねーよ。」
俺はホッと息をついた。
「ただな…」
「なっ、なに?」
「いつまでも一樹に肩抱かせたりすんじゃねーよ!!」
「…だって…」
「あいつが一番危ねーんだよ。」
俺にとって一番危ないのは二葉なんだけど…心で叫んでも口には出せない。
「呼び出してもらったから一樹には文句言えねーけどよ。おまえは違うだろ…俺への詫びはしてもらうからな…」
そんな…仕事が早く済んだのは俺のせいじゃないだろ!! なんで俺が二葉に…詫びなきゃなんないんだよ…って言おうとした瞬間、耳元で
「あとで、ゆっくりとな」
と囁かれてしまった。
一樹さんと過ごした優雅なティータイム…あれは夢だったんだろうか。
まさに、天使と悪魔の兄弟だ〜〜〜。