投稿(妄想)小説の部屋

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No.320 (2001/07/29 08:05) 投稿者:桜草

LOVE NEST OR ……

 貴奨が長期休暇を取った。
 もちろん、緊急の呼び出しには出社することになってる……ったく、コンシェルジェが休暇なんか取っていいのかよ!? でも、なんで貴奨がそんなことしたのか、俺は知ってるんだ。
 っていうか、健さんが教えてくれた…
『お前が俺を呼び寄せたから』
 それだけ!? えっ…それだけ!? …マジ!?
 でも、貴奨は殆どここにはいないし、部屋だって余ってるし…それに俺、健さんといつも一緒にいたいんだ。
『ブラコンの兄貴にゃ、耐えられねーんじゃない!?』
 そう健さんが言ったけど、俺の大切な人は健さんなんだから、貴奨を優先するわけいかないよ。
 …ここは貴奨の家だけどさ…

「んじゃ、生活費は折半ってことでシンのとこ行くかな。」
「そんな…お金なんて…俺が勝手に決めたことな…」
「…シン!! 俺だって仕事してる男なんだぜ。ヒモ扱いすんじゃねーよ」
「お…俺…そんなつも…りじゃ…」

 怖かった。このときの健さんの声はとても低くて…怖かった…本当に怖かったから俺…

「シ〜ン、泣くなよ。怒ってねーから。ただな、俺にもプライドつーもんあるわけよ。わかるよな!!」

 健さんは俺を引き寄せ髪に唇を寄せてきた。その唇はこめかみから額、頬へと移動して最後の俺の唇に…
「う…ん…」

「引越しそうそう新婚きどりか。」
「あっ、ども…また世話んなります。今度は江端ぬきっすけど…」
 貴奨は俺をずっと見てる…
「ここの生活費、折半でって…健さん…」
「当たり前だ。」
 う〜こわ!!
 なんでいつもこいつときたらこんなに怖いんだろ
 これでよく接客が勤まるよな〜

「貴奨さん、長期休暇取ったんですって!? そんなことしなくたって俺、家事でもなんでもしますよ。得意なんでね、そーいうの…知ってますよね!? まっ、毎日ってわけにはいきませんがね、俺も仕事あるんで…」
 二人の間のこの空気…重いよ…重過ぎる…
 俺、心臓破裂しそう
「健さん、部屋いこ…」

『なんで』って不満顔の健さん
 俺は健さんみたいに修羅場くぐってないんだよ!! 健さん、お願いだから俺の言う事聞いてよ…

「シンちゃん、お兄さんが怖いのかな〜」
 って言いながら健さんたらなんで俺に抱きついてくるんだよ!! 俺、顔引きつってる…うん! 絶対…だって俺、健さん呼ぶこと貴奨の承諾なしに決めたんだもん。
 だから、すこしは後ろめたい気もあるし…

「貴奨さん、休暇取ったんならあんたも恋人呼んだらどうです? いるんでしょ…あんたって根っからのゲイなんだし…俺は女も…」
「なら、慎吾から手をひくんだな。」
「へっ!?」
「女もOKな奴に慎吾を…」
「…やっぱりあんた俺に嫉妬してんだ…図星…でしょ、貴奨さん」

 あ〜もう貴奨も健さんも…俺のことなんか、俺の気持ちなんかどうでもいいのかよ!!!!
「やめてよ二人とも!!」
「…っと悪かったなシン、部屋かたずけんの手伝ってくれるか? たいしたもんねーけどな。」
 健さんは俺の肩を抱いたままポン! と叩くと部屋へ入って行った。

 俺、一気に緊張の糸がきれてその場にへたりこみそうになった寸前で貴奨の腕に捕らえられた。
「大丈夫か!?」
「大丈夫だよ。それより貴奨…」
「なんだ?」
「あんまり健さんにつっかかるなよな。勝手に呼んだことはあやまる。でも…」
「それは向井君に言ってくれ」
「なんでそうなるんだよ…」
 本当になんでそうなるんだよ…こんなとき高槻さんや江端さんだったら、どうやって止めるのかな…俺はただオロオロするばかりで二人をエスカレートさせるだけだもんな。いっそ、呼んじゃおうかな…高槻さんなら貴奨だって…

「慎吾」
「なんだよ。」
「本当に向井君とここで暮らすのか?」
「…マンション借りるお金貯まるまで、おいてよ…」
「いずれはここを出て二人で…ってことなのか。」

 貴奨の瞳が一瞬曇ったように見えた。
 でも俺は大きく強く頷く。
 貴奨のことは…貴奨のことは好きだよ。でも、健さんへの好きとでは違うんだ。
 貴奨だって俺のことあれこれ構うけど高槻さんに対する気持ちとは違うと思う。
 好き、大切、愛…の意味って…

「シ〜ン、早く手伝ってくんねーと拗ねちゃうぞ〜〜」
 貴奨の眉がぴくりと反応する。
『あーーーー』俺は頭を抱え込む。

「やっぱり貴奨の休暇中だけでも高槻さん呼ぼう」
 貴奨には聞こえないだろう声で呟き決心した。
「なにか言ったか?」
「…なにも…
 じゃあ俺片付け手伝うから…」

 高槻さんが来た時の貴奨の顔を想像しながら俺は健さんの待つ部屋に入った。


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