兄として…
「そんな体でどこへ行くんだ!?」
「…健さんと…約束してんだ。」
時計の針はP.M8:00を指している。まだ俺が帰ってないとでも思ったのだろう。
40度ちかい熱を出し寝ていたはずの慎吾が部屋を抜け出そうとしていた。
それほどまでに大切なのか…あの男が…
向井健
あの男のために、慎吾は免許を取り、拳法まで習った。
大きな問題こそ起こしていないが…いつかはと思うと心配になる。
『過保護すぎるんじゃないのか』
以前そんなふうに言われたことがある。
『過保護』はたしてそうなのだろうか…その言葉の裏に隠された本当の意味…むしろ『嫉妬している』、そんな意味も含まれているような気がした。
俺は無言のまま慎吾を抱き上げベッドへ戻す。
大人しく体を預けているところをみると、立っているのもやっとなほど辛いことは確かなようだ。なのに…
「向井君には、俺から連絡をいれておく。」
「そのくらい…自分でできる。」
そう強がりながらもすぐに寝息をたてて眠ってしまった慎吾の額にそっと手をあてる。熱は下がっていない。
うっすらと紅色に染まる頬に汗がうかんでいる。
髪に手を入れ剥いてやっていると、抱きしめたくなる衝動にかられる自分に息をのむ。
「俺は…」
『慎吾君じゃだめなのか?』
あの時、高槻の問いに答えを返さなかった。いや、返せなかった。
兄として…
このまま兄としての想いを通せるのだろうか…
慎吾の中にあの男がいる限り、通し続けなければならないのだろうか
違う…
変えなければならないのだろうか…兄としての想いへ…