東京テイクアウト 7−2
そして、写真の件でそれ以上、ご機嫌が悪くなりそうもなかったのでホットしたところで、新しいお客様が来店した。
横目で桜庭を見たが、嬉しさのあまりまだ現実世界にも戻って来れそうも無い様子だったので、悠が対応することにして、にっこりと、営業スマイルを浮かべた。
「いらっしゃいませ!」
お客は3人。その先頭を歩く一人がその中の支配関係の主とすぐ分かる、堂々とした態度で、先刻来た少し恐そうな人と同じ位の背の高さがあったが、今度の客のほうがスリムに締まった体つきをしていて、それを派手なイタリアンカラーのシャツと黒のパンツに納めていた。肩で風を切って歩いているようで、短い黒髪とキツイ目つきなどの剣呑さは、前の人以上という印象だった。連れの2人は明かに、子分と言った様子だ。
今日のお客さまはちよっと、恐い系が多いなぁと悠は内心でビビリながらも平静を装って笑顔を作っていた。
「お決まりでしょうか?」
悠は少し恐かったけれどにこやかに訊ねた。
男は、そんな悠のことなど無視した様子で店内をグルリと眺めていた。
「ふ〜〜〜ん。最近結構話題になっているんだよな。こんな店だったのか…」
と独り言のように言っている。
子分らしき二人の青年も彼の後ろで店内を眺めていたが黙ったままだった。
「お、なんだ?『日替わり健さん』だって? こいつはいいな。俺はこれ食うぞ」
キツイ目をした青年が楽しそうな声を出した。
「良い趣味じゃん。おまえらは?」
背後の連れに声を掛けたが彼らは首を振って断った。
「それは、セーヤさんのものですよ。俺達には贅沢過ぎますから。それにそんなに腹へってないんで飲み物だけでいいです。おれ、柢桂茶がいいな」
「あ、おれも同じ」
もう一人も慌てたように便乗して希望を言った。
「遠慮すんなよ。まぁいいけどな。あとは、巷で評判の『箱入り慎吾』だな」
カウンターひじを突いて悠を眺めてセーヤと呼ばれていた青年は言った。
「ハイ。お茶は3つでしょうか?」
「ああ、そうだな」
「そして、『日替わり健さん』をお一つと『箱入り慎吾』をお一つでよろしいでしょうか?」
「ああ」
「あの『箱入り慎吾』の包装は…」
「『簡易健さん包み』に決まってるだろ。その包みをバリバリ引っぺがすのがいいんだよな。楽しそうでワクワクするぜ」
「はぁ…」
「『日替わり健さん』は俺が食うんだ。『箱入り慎吾』は噂の食いものだから、皆で回して食うんだよ」
そういってセーヤはニヤリと笑った。
悠はその笑いに一瞬ゾクリとしてしまった。
「まわす? 『箱入り慎吾』を皆で回すのですか……」
悠は思わずつぶやいてしまっていた。なんだか、危ないような気分になってしまう。
「あの『箱入り慎吾』は繊細なものですので、あまり乱暴には扱わないようにお願いします」
「うっせーなぁ。味見だよ味見。俺達がどう食ったってかまわねぇだろ」
目つきが急に冷たくなっていき、悠はビクリとして身体を堅くした。
「はい。申しわけありません」
「んじゃな。美味かったらまた来るわ」
青年達はそういうとテイクアウトしたものを持って店を出ていってしまった。
とたんにホットして悠は肩の力が抜けるのが分かって、自分で意識していた以上に緊張していたのが分かった。
今日は「健さん」関係が売れたな。それもチヨット恐そうな人達ばかりだったけど、と悠が思っていたところに、モデルのお元気少年の声がした。
「卓也〜〜〜。何だか今のすごくなかった? 俺この前、一樹が『箱入り慎吾』を裸で持って帰った時にも弁当に同情しちゃったけど、今日のはもっとハードだよね。
回すって…マジ可哀想な気になっちゃった」
「ああ」
青年も暗い声で答えていた。
悠も彼らの意見には同感で、ただ『箱入り慎吾』の無事を祈るしかなかった。
派手な姿の青年達の姿はすでに夜の闇に中に消えてしまっていた。
今回のお客様:ティアランディア、桔梗、卓也、聖也、その他子分1、2