投稿(妄想)小説の部屋

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No.292 (2001/07/06 11:55) 投稿者:じたん

BETWEEN THE SHEETS 6

「さて、そろそろ帰るか?」
「はい」
 腕時計を見れば、もうすでに日付けは変わってしまっていた。
 会計を済ませる鷲尾を見つめながら、絹一は思っていた。
 アクシデントはあったけれど、とても楽しい夜だった。
「一樹さん、卓也さん、ごちそうさまでした。とてもおいしかったです。それと…とても楽しかったです」
 そう言って、絹一はにっこり微笑んだ。
「またいらしてください」
 卓也の声に一樹がおや、珍しい…といいたげに眉を上げる。でも、本人に気付かれる前に絹一に視線を移していた。
「ホント…絹一さんて可愛いな…ねぇ、鷲尾さん?」
「だからなんだ?」
「…ふふ…そんなに怖い顔しないでください」
 ちょっと意地悪してみただけなんですから少し肩を竦めるようにした一樹に鷲尾が1歩近付いて頭をはたく振りをしながら苦笑した。
「…最後のカクテルBETWEEN THE SHEETS …っていうんですよ」
 一樹がこっそり鷲尾に囁いた。
 それに鷲尾が声も出ない顔で一樹を見つめ返す。
「…最後まで気障だな、一樹」
「だから…」
「“あなたにだけは言われたくない”だろ?」
 すかさず鷲尾に攫われて、一樹は小さく吹き出した。
 そんなふうにくったくなく笑う彼を、鷲尾は今度は優しい瞳で見つめた。
 自分達にだけわかる短い言葉を繋ぐ。
「…やっと愛せる奴を見つけたんだな?」
 鷲尾の言葉に、一樹の笑い声がピタリと止まる。
 でも、一樹は次の瞬間絹一にどこか似たもう一つのエキゾチックな瞳を思い出して。
 この上もなく優しい幸せそうな瞳で、鷲尾にだけわかるように微笑んだ…

「…泊まってくか?」
「…今夜は随分弱気なんですね」
 いつも強引なくせに。
 自分の部屋まで連れてきて、あまつさえこの状況で、そのセリフもないものだと思う。
 ベッドのシ―ツい広がる絹糸のような絹一の髪を撫でながら、鷲尾はふと先ほどの一樹の言葉を思い出していた。
“今宵限りの極上の桜…”
 まさに、散り始める前の満開の桜。
 咲き誇る艶やかな花は、まるで今夜の絹一のようだ。
“…桜は散る直前が一番美しいんですよ…だからその瞬間を逃してはいけませんよ?”
 一樹の悪戯っぽい声が聞こえたようで…
(…重症だな…俺も…)
 内心そう独りごちながら、鷲尾は唇を重ねた。
 ダンスの時よりも情熱的に絹一の柔らかい唇を貪っていく。
 きつく吸い上げられて、絹一の眉が切なげに寄せられた。
 しびれるような甘い感覚に、肩を竦めてしまった絹一のシャツのボタンを鷲尾の指がはずしていく。
カクテルの秘密を絹一は知らない。
“BETWEEN THE SHEETS …ベッド・イン”という意味を。
 知った時の彼の表情も、見てみたい気がするけれど。
 今夜は秘密にしておこう。そのほうが絹一を甘く感じるだろうから…
「…今夜…すごく嬉しかった…」
 交わりの合間に、濡れた唇が甘い告白をする。ありがとう…と言いかけたその言葉を、鷲尾は深く飲みこんだ。
 今夜の自分に余裕は無い。
 腕の中でしだいに吐息の甘くなっていく絹一を見つめながら、散った桜の花びらに埋もれる自分を想像して鷲尾は薄く笑った…


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