投稿(妄想)小説の部屋

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No.290 (2001/07/06 08:37) 投稿者:じたん

BETWEEN THE SHEETS 4

「大丈夫か?」
「あ…はい。それより一樹さん大丈夫でしょうか。さっきの人達に…」
「大丈夫さ。あいつはああ見えても、裏の世界にも顔が利くからな」
「それはまた…すごいですね」
 鷲尾が他の客に聞こえないように絹一にそっと囁くと、ほとほと感心したように絹一が呟いた。
 浅く息をついて絹一がグラスの中身を飲み干したとき。
 今まで流れていた曲が突然止まり、ノリのいいBeatの効いた曲がかかった。
「YEAH―――――!!!」
「Thannks!! 一樹!!」
 どうやらこの店のヒットナンバ―らしい。口々に小さく叫びながらフロアに飛び出していく。
「ほら、お前も来い!」
「え…?! ちょっ…!! …待ってくださ…鷲尾さん…!!!」
 いきなり腕を引っ張られ、訳がわからないながらも連れていかれてしまった。
 ほぼフロアの中央まで連れ出され、困惑しながら絹一は鷲尾を見上げた。
「俺、踊れませんよ…!!」
「いいから!」
 先ほどよりも明かりが落された小さな光の交差する中、少し横に動けば他人にぶつかってしまうのを気にしている絹一の腰に鷲尾の片腕が回された。
「鷲尾さん…!!」
「大丈夫だって」
 いきなりの密着に、絹一の心臓が激しく踊り出す。
やり場に困ってしまった絹一の手が仕方なく鷲尾のシャツを掴む。
 すると、頭の上で、クス…と鷲尾の笑う声がした。
こういう場所で踊るのは、もちろん初めての絹一である。
 リズムの取り方も、なにもわからない自分を鷲尾は上手にリ―ドしている。
 ス―ツで優雅にワルツも踊れば、こんなファンキ―な曲もこなしてしまう。
 全く…この男に出来ないことは何も無いのではないのかと思ってしまう。
 そんなことを考えていると、また曲調がかわった。
 曲は同じなのに、いきなりスロ―テンポになったのだ。と同時に明かりがさらに落された。
 それを待っていたかのように、鷲尾の腕が絹一の細い身体をきつく抱きしめた。
 驚いて、絹一が顔を上げる……
「鷲尾さ…ン…っ…ッ…」
 暗闇とめまぐるしく光の交差する中。絹一には鷲尾の顔すらわからなかったのに、彼の唇は薄く開かれた絹一の唇を寸分たがわずしっとりと塞いでしまった…たくさんの人の波の中で、鷲尾の唇が、絡みつく舌が…絹一を翻弄していく。
 瞬時にしてふわりと舞い上がるような感覚にとらわれる。
 こんな人前で、この行為をされるのははじめてだった。
 誰かが見ているかもしれないのに…焦る気持ちとは反対のところでなんだか…煽られているような気分になる…
(カラダの芯が…蕩けてしまう…)
 鷲尾の腕の中に落ちてしまうあの瞬間。自分の手から何もかも手放してしまう…その瞬間に我を忘れて委ねようしたとき。
 唐突に曲が止んだ。と同時に鷲尾の唇が離れていく。
(…え…?)
 その時、きっと自分は不満そうな顔をしたのだろう。
 自分を見つめていた鷲尾の顔が微かに苦笑すると、はっきりと明るいフロアの真ん中で鷲尾はもう一度軽く唇を触れ合わせた。
「…一樹に感謝しないとな」
 満足そうに呟いた鷲尾の言葉に、絹一の顔は今度こそ真っ赤に染まった。
 顔のあげられない絹一の手を、鷲尾は引いてカウンタ―席のところまで戻った。
 そんな絹一がなんだか可愛く思えて、鷲尾は忍び笑いを漏らしてしまった。
 それを彼に見られないようにしながら卓也に2杯目を絹一と自分にオ―ダ―すると、それとは別にもう2杯、注文した。
 卓也にはジン・トニック。そして一樹にはカナディアン・クラブ・ブル―ム―ンを。
 南国の澄んだ海のグラデ―ション。
 それは、絹一が連想した一樹のイメ―ジにぴったりの色合いだった。
 卓也から耳打ちされて受け取った一樹は、少し離れたカウンタ―の中からロックグラスを軽く持ち上げると鷲尾に小さく微笑んだ。


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