桔梗の休日。
今日は俺の仕事が休みなのと、忍の休みが久しぶりに重なって遊ぶ約束をしていた。
約束の時間にちょっと遅れて待ち合わせ場所に向かう。
遠目で忍が確認できる。やっぱり忍は来ていて、隣には長身の男がいた。
二葉じゃない。
でも、忍がそいつに相当気を許しているのがわかる。
あんな、穏やかでやさしい笑顔は俺達以外の前でめったに、見せたりしない。
後ろ姿しか見えない男の正体が気になる。
「し〜の〜ぶ〜♪ ごめーん!! ファンの子に見つかっちゃてさぁ〜
うまく凌いだつもりだったんだけど〜遅れちゃった〜♪」
「あっ、小沼。」
忍が俺の声に振り返る。同時にその男も。
なかなかの男前だった。(卓也の足元にも及ばないけど♪)
耳を隠す程度に長い髪がワイルドで、長身なだけじゃなくてガタイもいい。
「あっ!! 本物!?」
男が叫んだ。
忍に駆け寄ると、その男を紹介してくれた。
「小沼、こいつが伊田だよ。この前話した。」
イダ・・・。あっこれが俺のファンの伊田かぁ〜そういえば、面影あるような…。
「あー伊田クンね! 小沼桔梗です♪」
俺は愛想良く挨拶する。ファンは大切にってやつだ。
「本物に会えるなんて感激っす!!」
月並みに握手を求められる。
「俺、ちょっと飲み物買ってくるから、しばらく二人で話してたら?」
忍は、自分がいると伊田が色々昔のこととか話しにくいと思ったのか気を使って離れていく。
チラッと伊田を見ると、飲み物買いに行く忍の後ろ姿を目で追っていた。
そのとき、本当は聞くつもりはなかったことを聞いてみたくなった。
「ずいぶん忍と楽しそうに話してたね。」
「えぇまあ…、って小沼さんのこと話してたんですよ。」
「俺!?」
思ってもみないことを言われて少し拍子抜けする。
でも、それなら忍があんな顔してた理由がわかるよ。
「今日は偶然会ったんですよ。小沼さんと約束してるって聞いて、色々小沼さんのこと聞いてたんです。」
「あー、なーんだ。」
ちょっと安心する。
忍って人に好意に鈍感なところあるし。二葉も大変だよね…。
「忍さんって小沼さんの話してるとき、すごい良い顔するんですよね。ときどき、無性にその顔見たくなるんですよね。本当に二人は仲良いんですね。嫉妬しちゃいますよ。」
あーあ…。悪い予感的中。
「…どっちに…?」
「えっ…、忍さんにですけど?」
「・・・・・」
なんだこいつ、自分が忍のこと好きだって気づいてないのか?
…いや、気づかないふりをしているのかもしれない…。
忍は学校で、外に付き合っている人がいるって有名だし、色々リスクが大きい。
傷つく恋になるのがわかっているのだろう。
もしかしたら、そのことで忍をも傷つけてしまうことを恐れてしまっているかもしれない。
忍の話を聞く限り、そんなの伊田らしくない。
好きになりはじめで戸惑っているのかな?
でも、そんなこと恐れてちゃ恋なんてできるわけないのにね。
昔、本で読んだっけ。
誰でも人は、人を好きになるとその人に近づこうと、自然に似てきてしまうって。
例えば、男が女を好きになって臆病になり、女が男を好きになって勇敢になるように。
忍の、感受性が強いだけに、
傷つくことを避けようと知らないふりをしちゃうところが似てきたかな?
そー言えば、最近忍も二葉に似て男らしくなったよね。
前もかわいくて魅力的だったけど、今はもっとキレイで魅力的だ。
惚れるのは、しょーがないのかもね。
でも。でもっ!! でもっっ!!!
「忍は、二葉(と俺)のだからね!!」
考え込んでいた俺の突然の言葉に驚いたのか、伊田は困惑した顔で黙ってしまう。
そんな伊田を残して、忍のもとに駆け寄った。
もういいの? って顔、忍がしたから「いいの。」と言って、当初の目的の場所に足を進めた。
あぁ〜〜。学校やめたの間違いかな?
でも、自分のせいで俺が、やりたいことやらなかったって知ったら、忍悲しむよね。
せっかく親友になれたんだから、お互いを高めあえる関係になりたいよね。
馴れ合いの関係なんていやだ。
とにかく、二葉に報告しなきゃね、こりゃ。
二葉、どんな反応するかな…。
俺にも忍にも大変な休日になりそうだ。