続・朝
昨日今日と鷲尾は久しぶりの休暇だった。
絹一を会社に送り出したあと、手早くシャワ-を浴びた鷲尾は濡れた髪をタオルで拭きながら寝室に入った。
クロ−ゼットから白いコットンシャツと蜜色の綿パンツを出すと、ベッドの上に置く。
きれいに焼けた小麦色の素肌に白いシャツはとても会うから、と絹一がすすめてくれたのは肌触りの良いエジプト綿のものだった。
それを素肌の上にはおると、ズボンも穿いてベルトをしめる。
梅雨のこの季節は気温の変化が激しい。
鷲尾は平熱が高いので、どちらかというと薄着のほうが多かったが、今日の気温なら、このぐらいがちょうどいいだろう。
ボタンを二つほど外してラフに着ると、何だか少しセクシ−だ。
タオルを首にかけてリビングに移動しようとしたが、ふと思いついてタオルケットを剥いだ。
ダブルベッドのシ−ツに残るいつもより寝乱れた跡。
昨夜、久しぶりに堪能した身体を思い出して口元に笑みが広がる。
今朝はひやひやしたのだ。大きめのスェットは絹一の太股をかろうじて隠していたから、内股に残した唇の痕跡は彼にはばれなかったが。
鷲尾はシ−ツを剥いで新しいものを広げると、剥いだシ−ツをランドリ−に放り込んだ。
簡単に髪を乾かして今日はこのままでもいいか・・・と思った。
買物リストを頭の中で確認しながら、手早くリビングをかたずけていると、テ−ブルの下に落ちていた書類のようなものに気付く。
「やれやれ・・」
それは昨日絹一が会社から持ち帰っていた書類だった。
「今日必要だから持ってきてたんじゃねぇか?」
しょうがねえな・・・と苦笑しながらスケジュ−ルを一つ追加する。
「今日の夕食はどうすっかな・・・」
まだ一日は始ったばかりなのに、もう絹一とのディナ−の事を考えている自分に少し呆れながらポケットに財布と煙草を入れる。
突然たずねたらびっくりするだろうな・・と思いながら、鷲尾は車のキィをひっかけて部屋を出た。
先に買物を済ませて鷲尾が絹一の会社を訪れたのは昼近かった。
鷲尾の突然の訪問に絹一はびっくりしたが、書類を届けてくれた事に素直に感謝した。
だが。
その後がまずかった。
ギルバ−トにばれてしまったのだ。
せっかく訪ねてくれたのだし、もうすぐ昼なのだからランチを絹一と3人で食べようといいだしたのだ。
絹一のオフィスに上がる事になってしまった鷲尾は、軽く会釈しながら事務所を横切った。
口元に営業用の笑みをしき、鷲尾が横を通るだけで女子社員の動きが止まる。
パ−テ−ションで仕切っただけのソファセットに座り、昼休みになるのを待つ間、おそらくここに居る女子社員全員の熱い視線を涼しい顔で受け流しながら、鷲尾はオフィスで動く絹一を見ていた。
時折、滑らかな彼の英語が耳に届いてくる。
たまにはこんなのもいいな・・と思いながら小さく笑う。
その途端、小さい悲鳴のような声があちこちであがる。
その時、視線で追っていた絹一が近付いてきた。
「すいません。もう少し待っててもらえますか?」
「ああ。かまわないぜ」
「・・・そのシャツ、似合ってますよ。」
声を落して絹一が悪戯っぽくつぶやく。
「見立てがいいからな」
絹一の顔に笑みが広がる。
「もう少しですから。じゃ・・」
「絹一」
「はい?」
デスクに戻ろうとしていた絹一を鷲尾の声が呼び止める。
鷲尾の前まで戻ると、彼はおもむろに立ち上がった。
手を伸ばして絹一のネクタイを直す。
「よし。」
仕上げに絹一の頬を優しくぽん、とたたいた。
途端に絹一の顔が真っ赤になる。
なぜかあがった黄色い悲鳴に絹一はあわてて鷲尾から離れた。
そのあと、しっかりその様子を見ていたギルバ−トに散々冷やかされたとか。
女子社員の殺気だつ様な無言の攻撃にあったとか。
社内で絹一にモ−ションをかけていた何人もの人間が何故か彼を諦めたとか。
ギルバ−トのことはともかく。
鈍い絹一にそれらの理由がわかるわけもなかった。