もしも・・・
小沼から電話があったのが二十分前。タクシーにのりながら俺が向かっている先は病院だ。掌がやけに汗ばんでる。体の震えが止まらない。頭の中がやけに真っ白で。
学校から帰ってきたとたんに小沼から電話があった。泣きながら小沼が俺に伝えてきた言葉。
「忍、二葉が事故にあった!」
聞いた途端胸になにかずんって重いものがのしかかった。頭の中が一気にめちゃくちゃになって、急いで家をでてタクシーを拾った。
はやく病院につきたい焦りとつきたくない不安。
タクシーにのりながらやっぱり携帯を買っておけばよかったかなってどうでもいいことを思った。頭にうかんでくるのは二葉の顔。思い出す顔はどれも笑った顔ばかりだ。二葉ってそんなに笑ってばかりいたっけ? ううん、そうじゃない。二葉はめちゃくちゃしっと深くていつも俺が一樹さんとか朝井とかと楽しそうに話してるとむすっとしてたっけ?
そのときの光景を思い出して俺は笑った。笑ってから気がついたんだ。自分の頬が濡れているのに。俺にとって二葉っていうのはなくてはならない存在だって今気がついた。ううん、わかってはいたんだけど、俺馬鹿だから二葉がいるってことをいつの間にかあたりまえに思ってた。それがどんなに大切かっていつの間にか忘れていたんだ。
二葉ーーーーーーーー!
お願いだから死なないで。
あの腕に抱かれたい。
あの顔に微笑んでもらいたい。
あの人を抱きしめたい。
だってほら、もう、二葉がいないと・・・・・・・・・
生きていけない。
タクシーが止まった。俺は涙をふいた。入り口の方をみると小沼が青白い顔をして立っていた。
どくんっ。
高鳴る心臓に手をあてる。大丈夫、大丈夫だから。
近くまでいくと小沼が顔をあげた。俺に気づくとすごい勢いで抱きついてきた。震えてる。小沼も怖いんだね。
「大丈夫、大丈夫だよ、小沼。二葉は死んだりしないから」
「でもっ。たくさん血が出て、二葉の顔が青くて・・・」
小沼の頭をなでてやると小沼は顔をあげた。
「いこう、案内して」
大丈夫。
二葉と離れることなんてない。だって俺はこんなにも二葉のことが。
もし離れたら・・・・・・・・・・・・
俺が近くにいけばいい。