Secret Date
生徒会の仕事が終わり、片付けて帰りの準備をしていると、朝井が話しかけてきた。
「池谷さぁ、明日って、塾休みの日だっただろ?」
さっきから視線は感じてたんだ。
実際明日、塾は休みで、用もなかったんだけど、このあと朝井がどんな話を持ちかけてくるのかが気になって、俺は朝井の顔をじっと見つめてしまった。
「そうだけど。なに?」
数秒後、俺は上目遣いで尋ねた。
「いや、映画の試写会のチケットがあるんだけど、一緒に行かないかなぁと思って。」
そう言って、朝井が差し出したのは、俺がこの間二葉にオンエアされたら見に行こうよといって誘ったやつだ。
「忍が行きたいんなら。」とは言ってたけど、あんまり興味ないみたいだった。なぜか、映画の趣味は合わないんだ。
どうしよう。映画は見たい。でも、二葉に朝井と二人で出かけたことがばれたら、絶対にだまってない。でも明日二葉は、モデルのバイトがあるって言ってたし、ほんの2時間くらいならばれないかも・・・
そうして次の日、俺は学校から帰って一度私服に着替えてから、待ち合わせの場所に開園の1時間半前に着いた。あのあと、朝井が「じゃあ、ちょっと前に行って軽く夕飯でも一緒に食おうぜ。」と言うので、誘ってもらった手前、映画だけ見てハイさようならというわけにもいかないので、しぶしぶ承諾したのだった。朝井は先に着いていて、壁に寄りかかり、正面にあるビルの広告画面の映像を見ていた。こうして遠くから客観的に見ると、朝井も結構格好いいほうだなと思う。二葉ほどじゃないけど骨格がしっかりしていて背は高いし、意志の強そうなキリッとした目をしている。前に、冗談で告られたことがあったけど、朝井って彼女とかいないのかな? 女の子からもてそうなのに。
「ごめん。待った?」
「いや、ちょっと前にきたところ。で、なに食べる?」
俺たちはすぐに食べられるファーストフードの店に入って、向き合って座った。ちょうど夕方でおなかがすいていたのもあって、しばらく二人とも黙々と食べていた。チリバーガーとターキーサンドをペロッと食べてしまった朝井は、アイスコーヒーの氷をガラガラさせながら、聞いてきた。
「今日のこと、あいつに言ってあるの?」
「あ、あいつって…」
「二葉だっけ? 俺と二人だけで映画見に行くって言ったら、すんげー怒りそう。」
片方の口の端を上げてニャッと笑った朝井は、俺の慌てた表情を見ながら、あたりまえのように言う。
「言ってないんだろ?」
そんなこと聞くんなら、最初から誘わなければいいのに。何を考えているんだろう、こいつは。
俺が何も言わないでいると、「ま、いいや。」とひとりで納得して、残りのコーヒーを飲み干す。
映画館に着くとすでに開場していて、俺たちも流れに沿って中に入った。すると、前方に背の高いモデルのような軍団。モデル?
『やばっ・・・』
「あれ、もしかして、小沼?」
俺達の数メートル先に小沼とエマ達の派手な集団が、優雅に歩いていた。俺が止めようと思っている間に、朝井は動いていた。
「あれ〜、忍。何やってんの?」
朝井に声をかけられた小沼は、俺の方を振り返って言った。
「朝井とデート? ふ〜ん。」
うれしそうに笑った小沼は
「じゃ、邪魔しちゃ悪いからまたあとでね〜。」と言って、エマ達と先に行ってしまった。小沼のことだから、二葉に変な告げ口はしないだろうけど、なんか楽しんでるな。違う意味でこっちもあとが怖い。
映画は面白かったみたいだけど、集中できなかったので、こんなことならやっぱり断ればよかった。
出口のところで、小沼に肩をたたかれた。
「忍、このあとちょっとつきあってよ。朝井、いい? おまえは明日も、学校で合えるだろ。」
朝井は何か言いたそうだったけど、小沼にちょっと睨まれて、結局帰っていった。
朝井の背中を見送って、壁に寄りかかっていた小沼は、きれいな笑顔でいった。
「このまま忍連れて行かれちゃったら、二葉かわいそうだもんね。」
「ただ、一緒に映画見ただけだよ。二葉はこの映画、あんまり興味なかったみたいだから。」
「でも、二葉が知ったら、お仕置きもんだよ。朝井って、おまえのこと好きなんじゃないの?」
こうゆうとこだけは、妙に気が回るんだ、こいつは。
「だから、そういうのじゃないって。」
「ふーん。」と言って俺の目をじっと見つめた小沼は、
「じゃ、二葉にばらしちゃお〜っと。」と、恐ろしいことを言った。
こんどは、俺が小沼を見つめ返した。
「そんなに睨むなよ。まぁ、これは俺と忍の秘密ってことで、二葉にはだまっといてあげる。ひとつ、貸しね。」
次の日、俺は二葉とローパーで待ち合わせていた。カウンターには二葉が先に来ていて、卓也さんと何か話をしていた。きのうのことは、もちろん二葉には言ってなかったから、
ちょっと罪悪感があったけど、本当にただ映画を一緒に見ただけだから。
「ごめん。待った?」
「いや、ちょっと前にきたところ。」
卓也さんにも目で合図をして笑いかけると、卓也さんは何か言いたそうな目で俺を見ていた。小沼のことだからきっと卓也さんにはしゃべっちゃったんだろうけど、卓也さんが二葉に言うはずないし。
でもそのあと二葉も特に怒っている様子はないし、俺たちは普段どおりに接することができた。金曜の夜でローパーも混み合いだしたので、二人で店を出た。
「忍、今日は遅くっても大丈夫?」
「うん。」母さんたち、今夜は帰ってこないんだ。
「じゃ、いい?」
そう言ってホテルに連れて行かれた。
部屋に入ると、急に二葉の様子が変わった。俺の両手首をギュッと握って、向き合って座らされた。なんかやばい。
「忍、なんか俺に言うことない?」
やっぱりばれてた? 今までの態度とは打って変わって二葉が怒ってる。いまさら遅いけど、さっさと謝っちゃったほうが得策だと考えた。
「きのうさ、映画に行ったんだ。こないだ二葉誘ったけど、あんまり興味なかったみたいだから。」
「それだけ?」
「なんで知ってたの?もっと早く聞いてくれればいいのに。」
「違うだろ。俺はおまえが言うの待ってたんだよ。おまえから言えば、許してやろうと思ったのに。で、他に言うことは?」
「だって、知ってるんでしょ。」もう、二葉の目が見れなくて、俺はうつむくしかなかった。
「忍の口から聞きたいんだよ。」そう言って二葉は俺のあごを持ち上げると、刺すような視線で見つめる。
「あ、朝井と一緒に行った。でも、本当に映画を見ただけだから。そのあと小沼が朝井を帰して、俺は小沼と…」
「キョウがいなかったら、おまえのことだから、あいつと飯でも食べに行ったんだろうが。」
「そんなことないよ。夕飯は先に済ませてたから、あのあとはすぐ帰るつもりだったよ。」
「映画だけじゃないだろうが。やっぱり飯も一緒に食ったんだろ。」
「だれに聞いたの?」
「桔梗のモデル仲間。さっきたまたまローパーで会って、『桔梗がかわいい男の子と3人でなんかもめてたわよ。あれっていつも二葉と一緒にいる子だったと思うんだけど。』って、教えてくれたんだよ。だからすぐキョウのケータイに電話して、裏取った。」
「 … ごめん。」
本当は、そんな一方的に謝る必要はないと思うんだけど、ここは素直にしておいた方がいいだろう。
「この次は許さないからな。朝井とは生徒会以外で付き合うな。あいつ絶対また誘ってくるぞ。おまえ、無防備すぎるよ。」
「うん、わかった。」
やっと二葉の目がやさしくなってきた。でも次の言葉に、俺の心臓は凍りついた。
「まぁ、今回はお仕置きだけで許してやるよ。」