日本昔話:鶴の恩返し
ある所に、賭博で生計を立てている健さんという人がいました。
勝負運がとても強いらしく、生活して行くには困らないお金がいつも転がりこんできていました。
そんなある日のこと。
健さんはいつものように賭場で一儲けしたあとの帰宅途中、罠にかかって悲しそうに鳴いている鶴を見つけたのです。
鶴は健さんの姿を見つけると、よりいっそう悲しそうに鳴きました。
「あ〜あ。どんくせぇなぁ。…ほら、もう捕まるんじゃねーぞ」
健さんは傷ついた鶴の脚を手当してやると、空へと放してやりました。
鶴は感謝するように健さんの真上をくるりと旋回すると、湖のほうへと消えていきました。
そしてそれから何日後かの深夜未明。
健さんの家の扉をトントン、と叩く音が聞こえて来ます。
「誰だ?」
健さんが扉を開けるとそこには可愛らしい男の子が立っていました。
「俺は慎吾といいます。俺をお嫁さんにしてください」
健さんはかなり戸惑いましたが、慎吾くんが結構好みのタイプだったのでお嫁さんにすることにしました。
慎吾くんは毎日毎日大変よく働きます。
その働きぶりには健さんも満足していたのですが、たった一つだけ満足できないことがありました。
お嫁さんにしてくれとやってきたのに、慎吾くんと健さんは初夜をまだ迎えていなかったのです。
健さんが慎吾くんに触れようとすると、するりするりとかわされてしまっていました。
「まったく…。俺達は一応、新婚なんだぜ?なのになんで手もさわっちゃいけねーんだ?」
そういっても慎吾くんは頬を赤く染めて俯くばかりです。
それから数日後。
吹雪が続いているため、賭場はここのところ開かれていません。
前に健さんが賭場で稼いできたお金は無くなってしまいました。
「お願いがあるんです」
慎吾くんは健さんの前に座り、部屋を増築してほしいと言い出しました。
「俺の織る布はきっと高く売れるから…」
反物を織るための部屋を増築し、そこへ3日3晩籠るからその間決して部屋を覗かないで欲しいというのです。
「覗くな、だと?」
健さんは不服です。アツアツの新婚のはずなのに、手も握れない、そのうえ部屋を増築して3日間別居とは。
けれど健さんがどんなに不機嫌な顔をしても、慎吾くんは布を織らなければならないのです。
「なんで覗いちゃいけねぇのか、説明してもらおうか」
健さんはとうとう強硬手段に出ました。
それはそれはすばやい動きで慎吾くんの腕を絡め取ると、自分の胸に抱き寄せたのです。
慎吾くんは頬を染めながらも、なんとか健さんから離れようとしますが、
健さんの腕はそれを許しませんでした。
とうとう根負けした慎吾くんは、理由を健さんに話してしまいました。
「恩返しだぁ〜〜??」
なんと慎吾くんは以前健さんが助けた鶴だったのです!!!!
その助けてもらったお礼に健さんのところへとやってきたのでした。
「やっとこれで恩返しができると思ったのに…」
「あのな、金なんてのはな、俺が賭場に行きゃ幾らでも稼げるんだよ。
…それより他のことで恩返ししてくれねぇかなぁ〜?」
にやりと健さんは笑うと慎吾くんの帯に手をかけました。
慎吾くんの頬はより一層赤く染まってしまったのです。
そして。
慎吾くんは鶴になった姿を見られたわけでもないので、健さんと一緒に末永く暮らしました。