七夕の夜に
「今日はね、『七夕』っていう日なんだって。離れ離れになった彦星と織姫が年に1度だけ会える日…。その日人間界では笹の葉に、願い事を書いた短冊を飾るそうだよ」
「願い事?」
「うん。願い事が叶いますように、って思いをこめてね」
ここは天主塔の執務室。1日の仕事を終えた守天のもとに、柢王、桂花、アシュレイがそろっていた。
一体、何の用で呼んだんだ、と桂花の横で不機嫌そうに腕を組んでいるアシュレイに、守天はこの話しを教えた。
「へえ、おもしろそうだな。俺達もやるか」
楽しいことには飛びつかずにはいられない柢王が言った。
「笹の葉なんて天界にはありませんよ」
相変わらず冷静な桂花に、笑いながら柢王が返す。
「そんなの、なんだっていいんだよ。な、ティア?」
「そうだね。」
守天は小さく笑って、そう答えた。
桂花は「まったくお祭り好きなんだから…。」と少しあきれた表情で、アシュレイはなにか考えるような顔をしていた。
そして4人の願い事が、それぞれの短冊に書かれた。
「桂花の膝枕で眠りたい♪」(柢王)
「冰玉を温泉に連れて行きたい」(桂花)
「げきからカレーが食べたい」(アシュレイ)
「アシュレイとずっと一緒にいられますように」(ティア)
互いが書いた短冊を目で読みあいつつ、柢王の願いってすでに叶ってるんじゃ…と思った3人だった。
桂花の願いは、どこかの龍鳥とケンカをしたときに負った冰玉の傷が早く治りますように、との願いがこめられているようだ。
アシュレイの願いは、願いというよりは、ただの食欲でしかない。
守天の願いも想像はついていたけれど、まさか本当に書くとは思っていなかったアシュレイだった。
「だめだよ、燃やしちゃ」
そう言って守天は、自分の短冊に結界をはった。
「てめー、なんでわかるんだっ!!」
「おまえの顔を見てればわかるよ。なんだって顔にでちゃうんだから…。」
そこが可愛いんだけど、と言いながら大切そうに自分の短冊を守天は手にとった。
それを、天主塔の庭から容赦なくアシュレイが折った木の枝に結びつけながら、小声でアシュレイの耳元に守天は囁いた。
「ねえ、おまえの本当の願いってなあに?」
「…カレー、食べたい」
「…明日の昼食はそうしよう。で、ね? 本当のところは…?」
「しつこいっっ!! 俺はカレーが食いたいんだっ!!」
嘘をついた子供が、必死で嘘を守り通そうとするような顔をして。
そんな顔したら、やっぱり嘘なんだなってわかってしまうのに。
隣でぎゃんぎゃんと文句を言っているアシュレイが
(うるさいっ、しつこいっ、ヘンなこと書くなっ!etc.)
ティアは可愛くってたまらない。
「なーにケンカしてんだよ。どうしておまえら、俺達みたいに甘ーくなれねえんだ?なっ、桂花♪」
そう言いながら柢王は桂花の肩をぐっと抱き寄せた。
「吾は見せつけるのは好きじゃありません」
そう言った桂花の言葉を聞きながらアシュレイは、いちゃいちゃすんじゃねえ、とますます怒っている。
「んじゃ、二人っきりならいいんだな、桂花。そうと決まればさっさと帰ろうぜ。じゃな、ティア。頑張れよっ!」
柢王はウインクをして桂花の肩を抱き寄せたまま、執務室から退出した。
柢王の「頑張れよ」という言葉を聞いて「何を?」と思った瞬間、アシュレイはあらぬことを思い浮かべてしまい、真っ赤になった。
(うー、これじゃ、ティアじゃんか〜っ!!)
その夜、寝台の中でティアの寝顔を見ながらアシュレイは思った。
「本当の願いなんて…。ひらひら飾ってなんかおけねえよ。」
天界一の武将になりたい。
天界一強い武将になって、ティアを守る。
それが自分の本当の願い。
「でも、短冊に書いて願いが叶うんだったら…。書いたほうがよかったのかな…」
気持ち良さそうに眠っているティアの顔をもう1度見つめた。
「おまえの願いは…、心配いらねえ」
アシュレイはそうつぶやくと、目をつぶってティアの額に自分の額をそっと当てた。
そのころティアは夢の中で、アシュレイの本当の気持ちを知り、照れてうつむいている恋人を抱きしめていたのだった。