投稿(妄想)小説の部屋

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No.54 (2000/06/20 14:00) 投稿者:ファルケ

1=5

 人間、性格は様々だ。
 十人十色という言葉が昔からあるけれど、僕の場合は一人十色というほうが納得できる。
 しかし、今の僕が十色なのではない。あくまでも今の所ということなのだけれど。
 今の僕は一人五色の状態だ。そう、数年前から巷でも話題になっている「多重人格性障
害(MPD)」と言えばいいかな。もっとも1994年のアメリカの学会で「解離性同一性障害(DSM−W)」と呼ばれるようになったそうだけれど、「多重人格」と言うほうが分かりやすいと思う。
 本体は普通の高校生の男子。名前は「池谷忍」という。
 両親は健在で家計も中流の上にランクされる程度はあって、一人っ子のせいで、愛情たっぷりの家庭に育っている。勉強も出来るし、外見だって男らしいとはいえないけれど、美形な顔と華奢な身体で、好感度は高いほうだ。少し変わっているといえば、恋人が同性だというところだろうか。
 僕なんかからみたら、幸せたっぷりで、障害なんか起こしそうには思えないのだけれど、彼の中では、それらの状況は幸せを運んできてはくれていなかったということらしい。
 だから、僕らがいるんだ。
 一応、僕が本体の「池谷忍」の中の4人のまとめ役みたいな立場にいるけど、僕が一番の古株というわけではなくて、4人の中でもっとも性格的に向いているからということだと思っている。
 4人を紹介してみようか。
 まずは、中でも一番元気で乱暴ものなのが、「ジン」。
 小学生高学年で、その暴れ方も可愛いものなので、僕なんかは「ジン坊」って呼ぶけど本人はすごく怒る。
 親の愛情や期待、世間の目が重圧になってしまって、良い子でいることに耐えられなく>なってしまった、というお子様でわがままな奴。
 六本木の交差点のガードレールに腰掛けていて、からかって来たサラリーマンの背中を蹴り飛ばしてしまったのはアイツだ。
 中学生になりたての年頃の「百合」という女の子もいる。
 でも、彼女は最近はあまり表に出てこなくなった。中学になったころにクラスメートに女の子みたいだと、からかわれて、嫌な思いをたくさんしたことが彼女の誕生に繋がっているのだと思う。
 それでも「忍」の恋人がナイトよろしく、塾のお迎えとか、男だったら普通は嫌がるようなことでも気にする様子もないのは、もしかしたら「百合」が対処しているのかもしれないと、思ったりする。
 3番目にいるのは僕とほとんど同じ年の「のぶ」という名の少年。
 彼は、信じられないくらいの悲観主義者だった。本体の暗い不安を全てしょいこんでしまったような、深刻な顔をしている。ちよっとしたことでも、悪いほう、悪いほうにしか考えられなくて、常にネガティブ思考の奴。
 グルグル考えてしまって、どうしょうもなく暗い内容のFAXを夜中に何枚も恋人に送ってしまったりする困ったくんがこいつだ。
 中学生の後半からの交友関係のごたごたなどでの暗い部分は、全て「のぶ」がひき受けてくれている。
 そして僕。名前は「シィ」。
 本当は違う名前なんだけど、僕の大好きな人がそう呼ぶのでその名前も気に入っているし、今の説明では本体と似た名前の方が混乱しないと思うから。
 僕は自分で言うのもズーズーしいけど、頭も良いし、性格だっていい。唯一の問題は、僕が一樹・フレモントが好きだということだ。僕にとっては問題じゃないんだけど、彼の弟を恋人に持っている本体にとっては大問題なのだった。
 そんな理由で僕は存在している。
 本体の「忍」は恋人の二葉の大胆なアプローチに、いつもウブなほどにオタオタしているけれど、僕は違う。
 「忍」が知ったら、腰を抜かしてしまうかもしれないほど、僕は淫らだ。
 大好きな一樹さんを思って自分で自分を慰めるなんてしょっちゅうだし、それでも我慢が出来ないと、一樹さん本人に逢いに行ってしまう。
 めったに出来ることじゃないから、やるときは徹底的にと思う。僕に与えれれる時間は少ないし、あんまり僕らしくして気づかれても困るから。
 でも一樹さんは大人だから、そんな「忍」の様子にだって、単なる情緒不安定なものと思って、なだめるように優しく「シィ」を抱いてくれる。
 望めば一晩中だって抱きしめてくれるんだけど、それ以上は進めない。
 僕は、もっともっと、と多くを望んでしまうけれど、弟の恋人だからってだけで優しいのはすごく悔しいのだけれど仕方がないと半分は諦めている。
 あの優しさだって、一樹さんがハーフで子供の頃はLAで育ってきたからの対応で、普通の日本人からみたら、過剰なスキンシップだと思う。
 本体の恋人の二葉はとても嫉妬深いから、僕はあまり表に出て行くことはできないでいる。でもいつもここで、一樹さんのことを想っている。
 「忍」はちょっとぼんやりしたところもあるし、勉強が忙しくて疲れているのを良いことに、僕が少し働きかけてやるだけで、曖昧な記憶も疑問を持たずに素直に受け入れてくれている。
 僕らが多くを望まなければ現状維持で十分だと僕は思っているけれど、「忍」は強い子じゃないから、いつの日か、僕らの仲間が増えるかもしれないとは思っている。
 みんな性格は違うけれど、いつでも「忍」を守って行きたいと思っている、僕らだった。
 向こうに綺麗な金髪が見える。待ち合わせの恋人くんが来たようだから、僕は消えるとしようか。

「お待たせ」
 ファミリーレストランの奥のテーブルの前で二葉は声をかけると、するりと忍の前の席に腰を下ろして、長い足を無造作に組んだ。
「おい、忍? 寝てんのか?」
 二葉は煙草をくわえたまま、うつむいている忍の顔を覗き込んだ。
「え? あ…二葉」
「大丈夫かよ? 勉強のし過ぎじゃねぇの」
 テーブルの上には英文雑誌と辞書と、半分減ったカフェオレのカップがあった。
 留学を決めてから前以上に英語の勉強をする忍を、少し心配そうに二葉が見る。
「昨日も寝るの遅かったからかな? 今、居眠りしちゃったね、おれ」
 恥ずかし気に言う忍の髪を二葉は大きな手でくしゃくしゃとかきまわした。
「あんまり無理すんじゃねぇぜ」
 恋人優しく微笑んでいた。

                                     END


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