投稿(妄想)小説の部屋

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No.32 (2000/05/23 22:27) 投稿者:藤水 一世

TAKUYA―――Wish

 最近桔梗の帰りが遅い。
 夜の2時や3時はあたりまえ、下手したらそのまま家に寄らず次の仕事に行くこともある。
 俺はモデルの世界のことはよく知らないが、モデルってのは肌や体型維持のために、規則正しい生活が望まれる職業なんじゃないのだろうか。
 少なくともここ最近の桔梗のように、連日酒のにおいをさせて、深夜帰宅ってのはモデルとしてはあってはならないことだと思う。
 けれど、訊けない。あいつも子供じゃないんだ。
 言わないけれど、あいつの部屋にファンからもらった小物やアクセや、花が少しずつ増えているのを俺は知っている。
 そして桔梗に、社会人としての、プロのモデルとしての自覚がついてきていることも。
 ・・・大人になってきている。着実に。
 俺の手を離れて。

「ただいま〜あ、たくや〜」
 玄関から響く陽気な声は、今日も酔っ払っていた。
「おまえ、いいのか?そんな毎日毎日・・・」
「だいじょおぶ〜。卓也きょうも男前〜・・・だから部屋まで連れてって・・・」
「バカかおまえは! 足腰立たなくなるまで飲むな!」
「だってみんながくれるんだもん・・・」
 背は伸びても軽い身体は、抱えあげた途端に眠りに落ちた。
 そして俺は見つけてしまった。
 くっきり浮き上がった鎖骨に、紅い痕。
 なんだこれは。
 ほとんど衝動的に、ベッドの上に下ろした桔梗のそのしるしの上にかみついた。
 歯型とさらに濃い痕。
 俺のものだというしるし。
 でも一度生じた心のもやは晴れない。
 いらいらと桔梗の酒くさい・・・他の男の匂いがついてるかもしれない服をぬがせようとしたとき。
「・・・卓也・・・」
 安心しきった無防備な笑顔。怒りもそがれて、俺は苦笑した。

 帰ってくるんだから、いいか。
 必ず俺のところに帰ってきて、羽根を休ませて、俺にしか素顔を見せないんだから。
 いつでも腕の中を開けておいてやりたい。

 ・・・でもそれとこの痕と、話は別、とばかりに、後に桔梗は卓也にさんざんおしおきされたのでした(苦笑)


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