TAKUYA―――Wish
最近桔梗の帰りが遅い。
夜の2時や3時はあたりまえ、下手したらそのまま家に寄らず次の仕事に行くこともある。
俺はモデルの世界のことはよく知らないが、モデルってのは肌や体型維持のために、規則正しい生活が望まれる職業なんじゃないのだろうか。
少なくともここ最近の桔梗のように、連日酒のにおいをさせて、深夜帰宅ってのはモデルとしてはあってはならないことだと思う。
けれど、訊けない。あいつも子供じゃないんだ。
言わないけれど、あいつの部屋にファンからもらった小物やアクセや、花が少しずつ増えているのを俺は知っている。
そして桔梗に、社会人としての、プロのモデルとしての自覚がついてきていることも。
・・・大人になってきている。着実に。
俺の手を離れて。
「ただいま〜あ、たくや〜」
玄関から響く陽気な声は、今日も酔っ払っていた。
「おまえ、いいのか?そんな毎日毎日・・・」
「だいじょおぶ〜。卓也きょうも男前〜・・・だから部屋まで連れてって・・・」
「バカかおまえは! 足腰立たなくなるまで飲むな!」
「だってみんながくれるんだもん・・・」
背は伸びても軽い身体は、抱えあげた途端に眠りに落ちた。
そして俺は見つけてしまった。
くっきり浮き上がった鎖骨に、紅い痕。
なんだこれは。
ほとんど衝動的に、ベッドの上に下ろした桔梗のそのしるしの上にかみついた。
歯型とさらに濃い痕。
俺のものだというしるし。
でも一度生じた心のもやは晴れない。
いらいらと桔梗の酒くさい・・・他の男の匂いがついてるかもしれない服をぬがせようとしたとき。
「・・・卓也・・・」
安心しきった無防備な笑顔。怒りもそがれて、俺は苦笑した。
帰ってくるんだから、いいか。
必ず俺のところに帰ってきて、羽根を休ませて、俺にしか素顔を見せないんだから。
いつでも腕の中を開けておいてやりたい。
・・・でもそれとこの痕と、話は別、とばかりに、後に桔梗は卓也にさんざんおしおきされたのでした(苦笑)