投稿(妄想)小説の部屋

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No.26 (2000/05/10 21:44) 投稿者:MINO

祭りのあと

 事務所のソファーにゆったりと体を預けて。
 手に持ったタンブラーの中身を煽る。
 ラスティ・ネイル。スコッチウイスキーの芳醇な香りと、ドランブイの甘味が舌の上を撫でるように滑り落ちて、喉を焼く。
 たくさんの祝いの品と花束と。
 それに添えられた言葉が、部屋中を飾って。
 こんなにもたくさんの人の心の中に、自分が居るのだと実感するのは、悪い気分ではない。
 ただ、一抹の寂しさを除いては。
 特別は作らない。
 貴方以上の人なんて、何処にもいないよと心の中の面影に思いを馳せて。
 静かにグラスを傾ける。
 傍らに、温もりがない。
 それだけで、冷えた心の温度が更に下がっていく。
 一人でいたくない、こんな夜は。
 祭りのあとは、物悲しい。
 幸せだよねと。
 ポツリと呟いて。偽りに気が付く。
 貴方のくれた思い出だけで、生きていけると思ってたけど。
 体温の伴わない、新しくもならない幸せは、だんだんと風化していく。
 恐くて。忘れてしまいたくなくて。
 目を背けつづけている。
 忘れてしまった事に気が付いたら、また傷付きそうな気がして。
 ギリギリのラインで生きている気持ちがまた、足元から崩れそうで。
 ドランブイのボトルに手を伸ばす。
 一度知ってしまった温もりが擦り抜けていく恐怖を、もう2度とは味わいたくない。
 幸せは、掌をすり抜けてから気付くもの。
 満たされた今の生活の中で、これ以上の幸せはいらない。
 失う恐怖に怯えて生きたくはない。
 満足すべきもの。
 その名の示すリキュールを、ストレートで喉に押し込む。
 まるでそれは、戒めの様に。甘く一樹の臓腑を焦がした。


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