祭りのあと
事務所のソファーにゆったりと体を預けて。
手に持ったタンブラーの中身を煽る。
ラスティ・ネイル。スコッチウイスキーの芳醇な香りと、ドランブイの甘味が舌の上を撫でるように滑り落ちて、喉を焼く。
たくさんの祝いの品と花束と。
それに添えられた言葉が、部屋中を飾って。
こんなにもたくさんの人の心の中に、自分が居るのだと実感するのは、悪い気分ではない。
ただ、一抹の寂しさを除いては。
特別は作らない。
貴方以上の人なんて、何処にもいないよと心の中の面影に思いを馳せて。
静かにグラスを傾ける。
傍らに、温もりがない。
それだけで、冷えた心の温度が更に下がっていく。
一人でいたくない、こんな夜は。
祭りのあとは、物悲しい。
幸せだよねと。
ポツリと呟いて。偽りに気が付く。
貴方のくれた思い出だけで、生きていけると思ってたけど。
体温の伴わない、新しくもならない幸せは、だんだんと風化していく。
恐くて。忘れてしまいたくなくて。
目を背けつづけている。
忘れてしまった事に気が付いたら、また傷付きそうな気がして。
ギリギリのラインで生きている気持ちがまた、足元から崩れそうで。
ドランブイのボトルに手を伸ばす。
一度知ってしまった温もりが擦り抜けていく恐怖を、もう2度とは味わいたくない。
幸せは、掌をすり抜けてから気付くもの。
満たされた今の生活の中で、これ以上の幸せはいらない。
失う恐怖に怯えて生きたくはない。
満足すべきもの。
その名の示すリキュールを、ストレートで喉に押し込む。
まるでそれは、戒めの様に。甘く一樹の臓腑を焦がした。