けんかの後は。
かつん、と足元にぶつかった小石を蹴り飛ばす。
それでも気持ちは晴れない。
少しだけささくれ立った心は、後悔とか、そんなものでドロドロしてる。
煙草の自販機の前で足を止める。二葉の吸ってる銘柄を見つけ出す。
でも買う度胸なんて俺にはなくて、そのまま踵を返した。
まっすぐ家に帰る気にもなれなくて、でも他に行けるところといえば二葉と顔を合わしそうなところばかり。
小沼は俺の味方してくれる時もあるけど。
「あいつ、親切心で時々とんでもないことするから……」
却下。
一樹さん……のトコに行くと余計にこじれそうな気が……する。
だからこれも却下。
「いつもの些細なケンカなんだから……って、だったらさっさと謝ればいいのに、俺」
簡単に謝れるような性格だったらこんなに何度もケンカなんかしないよな、と唐突に事実に思い至る。
土曜の午後の街中は若者で溢れかえっていて、なんとなく長居はしたくない。
その場だけの付き合いで騒ぐなんて、性に合わないのは分かってる。
結局帰るしかない。そう決めて家に向かう。
トボトボと辿る足は重くて、けれど確実に目的地に近付いて行く。
「おそかったじゃん」
家の近くの道端で、しゃがみ込んでいた二葉に気付くのが遅れたのは、ずっと俯いていたせい。
視界の隅で太陽の光に金色が閃いたと思った時には、もうすぐ傍で。
「…………二葉……」
俺は俯いたまま二葉の服の袖を掴んで、自分の部屋まで引っ張り込んだ。
あんなところにずっとしゃがみ込まれてたんじゃ、近所の人に何噂されるかわからないから、とか、そんなことを考えて、違う、と頭を振った。
そうじゃなくて。
ちゃんと話をしたかったから。
「ごめんっ、忍……俺、心狭いよな……分かってるんだけど」
「……二葉…………」
部屋の中で、俺のベッドに二人して腰掛けて。
でも二葉は俺から距離を置いてる。
俺が許さない限りは何もしないっていう、意思表示なんだ。
「謝ろうと思って、待ってたらお前、あんな顔して歩いてくるから……ごめんな」
「二葉…………俺のほうこそ、ごめん。ほっぺた、いたくない?」
勢い余って殴ってしまった頬は、少し赤くなっている。
ああ、俺ってやっぱり非力……ちゃんとぐーでやったのに。
「ああ。これくらい何でもねぇよ。舐めときゃ治る」
けろり、と言う二葉に、俺は吹き出した。
「そんなトコ、自分じゃ舐めれないだろ」
「ばぁか。誰が自分で舐めるんだよ」
もう、と俺は小さく溜息をつく。すこしほっとした気分で。
二葉の「ばぁか」ってのを聞くと、安心する。ちょっと変かも。
でも、そう言う時の二葉の目はいつも「仕方がないヤツ」って言ってるみたいに暖かくって、優しいから。
俺のほうからっていうのは気恥ずかしかったけど。
二葉の手に手を乗せて、俺は顔を二葉の頬に寄せた。