投稿(妄想)小説の部屋

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No.12 (2000/04/16 11:55) 投稿者:桐加由貴

桂月

 月には天人が住んでいるという。
 白金の柔らかな光の国。
 天に住む美しい男神を桂男(かつらお)といい、月の国にある芳しき花の木は桂であり、そも月の異称を桂月という。
 李々は、目の前の子供に、それを思い出していた。
 魔界には珍しい、光が差した明るい場所。白い髪が、光を受けて淡く発光しているかのような印象の幼子。
 それで、決めたのだ。
 この拾い子の名を。桂花、と。
 
 そして子供は桂花という名を得た。
 彼女と出会ってから別れるまでの間、いったい何度呼ばれたことだろう。
 とても綺麗な名前。
 桂花、と呼ばれるたび、嬉しくて誇らしくて。
 李々が世界のすべてだった。彼女がつけてくれた名を呼んでもらうたび、世界が広がった気がした。
 あの頃は、自分の世界は限りなく広がっていくものと思っていた。
 
 白い髪と、紫微色の肌をあらわにした自分を、桂花と呼ぶものがいるとは、全く思っていなかったのだ。
 ・・・あの天界人。
 名前を聞かれたから教えた。李々が呼んでくれるのでなかったら、誰に呼ばれてもなんの意味もないと思っていた。
 
 それでもあの天界人は、大切な宝石ででもあるかのように、桂花、と呼ぶのだ。
 桂花のほうは、まだ彼の名を呼んだことはないけれど。
 ・・・いつか、自分が彼の名を呼ぶこともあるのだろうか? 
「・・・」
 そっと桂花は、その名を呟いてみた。


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