投稿(妄想)小説の部屋

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No.2 (2000/04/01 01:44) 投稿者:櫻樹

守りたい微笑

 やさしい風が髪をなで過ぎてゆく4月。
 満開の桜は、華やかに咲き乱れているはずなのに、押し付けがましいことなくその風景の一部をかたどっている。
 その下に佇む、薄いブルーのスーツ。
 桜を見上げているその髪を、ふわりと風が揺らした。
 自分の存在に気付かず、ただ桜に見入っている。
 出会いも、桜の下だった。
 最初は気にもとめていなかったその存在を、意識しだしたのはいつだっただろうか。
 あいつの身体だけでなく、心を手に入れたいと思ったのは。
 幾度も、その心がつかめなくて、歯がゆい思いをした。
 あいつが考えていることがわからなくて、何度も傷つけた。
 やっと心を開いてくれたとき、どんなにうれしかったか知れない。
 ただひたすら、その心の扉が二度と閉じないようにと祈っていることを、あいつは知っているのだろうか。
 ふいに、ひっそりと立つその姿が、そのまま風景に溶け込んでしまいそうな、そんな漠然とした不安に襲われる。
 思わず手を伸ばして、呼び止める。

「絹一!」

 その声に、ゆっくりと振り向いたあいつは、ふんわりと、桜に負けない華やかさで微笑んだ。
 自分にしか向けられることのない極上の微笑み。
 それに安堵して、伸ばしかけた指を下ろす。
 その微笑が自分に向けられている限り、彼を失うことはない。
 自分の中に溢れる暖かな思いに、自然と笑みが浮かぶ。
 何に変えても守りたい。その笑顔を。


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