投稿(妄想)小説の部屋

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No.193 (2001/02/27 16:50) 投稿者:カエ

まだ・・・・

 二月ももうすぐ終わり・・・・・寒さもようやく緩み、というそんな朝。
「緩み・・・って言ってもまだ寒いよな・・・」
 少し伸びた前髪を手で気にしながら忍は朝食をとっていた。
 今日は何をしようかな。
 さっきバタバタと出ていった母親の言葉を思い出す。
「今日は家でお勉強でしょう?私は帰りは遅くなるから、適当にしてね。いい?」
 俺が、勉強しかしないと思ってるのかな。
 言外に「遊びになんて行かず、勉強しときなさいね」と言われた気がして、胸がチクッとした。
 違うな、家の親は俺が頭がいいのを知ってるから・・・
 別に今更そんな事をわざわざ言いたいはずがない。
 忍はそう考えたあたりで、半分以上のこっているご飯を残すことに決めた。
(どっちにせよ・・・被害妄想だな)
 軽く天井を仰ぎながら、そっと溜め息を吐いた。
 誰が見ているわけでもないのに、そういう風にするのが癖になってしまったようだ。
 疲れてるんだ。
 そう確信した忍はかたずけを済ませて、コートを着るか着ないかで少し迷った後、やっぱり薄手のコートをはおって家を出た。

「ね〜っ!! コレ、お世話になった先輩への卒業式花束だからっ。ん〜っと! 予算はこんくらいでっ、明日8時40分ぐらいに受け取りによるから、よろしくっ! 豪華にね〜っ♪」
 歩道を渡って、大手スーパーの近くを通りかかった時にはじけんばかりの声が聞えた。
 声の主は忍が視線を巡らす前にはもう後ろ姿となっていたけど・・・。
(そっか、もうそんな季節か。俺も、来年には・・・)
「・・・・卒業か」
 つぶやいて、いったい後一年、ガッコで何を学べというんだろう・・・と冷めた思いで足を進める。
 中学に行ったら、なにかが変るだろうか。

 たどり着いた先は家から歩いて30分ほどの市立図書館。
 なんとなく足が向いていた。
「つくづく、真面目な野郎だよ、オマエって」
 もう何日前だったかなんて忘れたけど、そう言われたことがあったな。
(やなんだけどな、真面目って思われるの)
 二階に上がって、窓から下が覗ける様になっている囲いの読書席に陣取った。

「・・・んっ・・・」
 少しぼうっとした頭をおこして、目をしぱたいた。
「俺、いつのまにか・・・」
 寝ていたみたいだ。
 いくら日が射していて気持ちよかったといっても・・・
 これじゃ何しに来たんだか。
 伏せていた体を起こして、周りを見渡してみる。
 もっとも、もともと何か用があったわけじゃないけど。
(でもなんか・・・すっきりしてる)
 誰だか分からない、やさしい声を聞いた気がした。
 やさしくて、心強い。
 でもどっか甘えてくるような感じも心地いい。
 ・・・どこで聞いた・・・? 思い出せない。
 周りの視線を気にしつつ、本を一冊借りて図書館を後にした。

 まだ昼前。
 本を置きに帰って、今度は街に出よう。
 忍は遊びに行く様の格好に着替えて玄関を出た。
 昼になったから、もう外は暖かい。
 コートは、いらない。
「いってきます」

 忍が声の主に出会うのは、もう少し、後のこと。


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