まだ・・・・
二月ももうすぐ終わり・・・・・寒さもようやく緩み、というそんな朝。
「緩み・・・って言ってもまだ寒いよな・・・」
少し伸びた前髪を手で気にしながら忍は朝食をとっていた。
今日は何をしようかな。
さっきバタバタと出ていった母親の言葉を思い出す。
「今日は家でお勉強でしょう?私は帰りは遅くなるから、適当にしてね。いい?」
俺が、勉強しかしないと思ってるのかな。
言外に「遊びになんて行かず、勉強しときなさいね」と言われた気がして、胸がチクッとした。
違うな、家の親は俺が頭がいいのを知ってるから・・・
別に今更そんな事をわざわざ言いたいはずがない。
忍はそう考えたあたりで、半分以上のこっているご飯を残すことに決めた。
(どっちにせよ・・・被害妄想だな)
軽く天井を仰ぎながら、そっと溜め息を吐いた。
誰が見ているわけでもないのに、そういう風にするのが癖になってしまったようだ。
疲れてるんだ。
そう確信した忍はかたずけを済ませて、コートを着るか着ないかで少し迷った後、やっぱり薄手のコートをはおって家を出た。
「ね〜っ!! コレ、お世話になった先輩への卒業式花束だからっ。ん〜っと! 予算はこんくらいでっ、明日8時40分ぐらいに受け取りによるから、よろしくっ! 豪華にね〜っ♪」
歩道を渡って、大手スーパーの近くを通りかかった時にはじけんばかりの声が聞えた。
声の主は忍が視線を巡らす前にはもう後ろ姿となっていたけど・・・。
(そっか、もうそんな季節か。俺も、来年には・・・)
「・・・・卒業か」
つぶやいて、いったい後一年、ガッコで何を学べというんだろう・・・と冷めた思いで足を進める。
中学に行ったら、なにかが変るだろうか。
たどり着いた先は家から歩いて30分ほどの市立図書館。
なんとなく足が向いていた。
「つくづく、真面目な野郎だよ、オマエって」
もう何日前だったかなんて忘れたけど、そう言われたことがあったな。
(やなんだけどな、真面目って思われるの)
二階に上がって、窓から下が覗ける様になっている囲いの読書席に陣取った。
「・・・んっ・・・」
少しぼうっとした頭をおこして、目をしぱたいた。
「俺、いつのまにか・・・」
寝ていたみたいだ。
いくら日が射していて気持ちよかったといっても・・・
これじゃ何しに来たんだか。
伏せていた体を起こして、周りを見渡してみる。
もっとも、もともと何か用があったわけじゃないけど。
(でもなんか・・・すっきりしてる)
誰だか分からない、やさしい声を聞いた気がした。
やさしくて、心強い。
でもどっか甘えてくるような感じも心地いい。
・・・どこで聞いた・・・? 思い出せない。
周りの視線を気にしつつ、本を一冊借りて図書館を後にした。
まだ昼前。
本を置きに帰って、今度は街に出よう。
忍は遊びに行く様の格好に着替えて玄関を出た。
昼になったから、もう外は暖かい。
コートは、いらない。
「いってきます」
忍が声の主に出会うのは、もう少し、後のこと。