投稿(妄想)小説の部屋

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No.190 (2001/02/14 05:41) 投稿者:まい

St.Valentine’s Day*2nd stage・3

 2月14日。決戦の日。女の子にとっては、だけど。
 チョコレートケーキはだめになっちゃったけど、あれからカードも買い足したし、これでオッケーでしょ。
 俺にしては、気がきいた方だよね。
 二葉とは5時に渋谷で待ち合わせている。10分前に着いたんだけど、
 バレンタインだから流石にカップルが多くてちょっとうんざりする。
 これだけ人がいても、二葉はすぐに俺のこと見付けられるって言ってた。
 愛の力だぞ、って。
 人込みを掻き分けつつ、なんとか壁際をゲットし、冷たい壁に背中を預ける。
 一息ついていると、携帯の受信音が鳴り響いた。
 周りの人が一斉に自分の携帯をチェックする中、俺もカバンの中を探ってみると、液晶画面がチカチカ光っている。点滅する液晶画面には、小沼の名前。
「もしもし?」
『しっ、忍っ!?』
 切羽詰まっている様子の小沼の声に、嫌な予感。
『良かった、繋がって! 渋谷で待ち合わせでしょ? あの、あのね、二葉がバレて卓也が大変なんだ!』
 小沼の日本語がおかしい。やっぱりなにかあったんだ!
「どうしたの。落ち着いてよ、小沼」
『二葉がうちに来る…』
「はい?」
『いや、二葉から電話あって。10分くらい前に電話が。そんで』
「そんで?」
『バレた』
 サー…っと、血の気の引く音がした。
 携帯の向こうで同じように真っ青になっている小沼の姿が脳裏に浮かぶ。
「バラした…のか?」
『そうだ、バレたんじゃなくって、バラしたんだ。ゴメン、口が滑っちゃって! てゆーか、卓也が危ない!』
 もう、血の気引きすぎて、目の前がくらくらしてくる。
『二葉がっ、卓也のこと、殺してやるー! って言ってて! 今すぐ行くから、卓也捕まえとけって!』
「にゃにぃ〜!?」
 もう周りの目なんて気にしてる場合じゃない!
 俺は大声を張り上げながら、半蔵門線の改札を目指して走った。
『た、卓也、逃げてっつっても聞いてくれなくて…どうしよう…』
 そりゃ、いきなりそんなこと言っても逃げやしないだろうな、あの人は。
「卓也さんに代わって!」
 続いて出てきた卓也さんは、大方の予想通りのんびりしきった声で。
ああ、コトの重大性をどう伝えればいいものか!
「卓也さんっ、今すぐ、家から出て下さいっ! できれば車で! すいません、説明している余裕、ないんです!」
『…分かった』
 普段はこんなこと言われたところで動く人じゃないんだけど、どうやら俺のこの慌てっぷりと、2月14日って日にちから、大体なにがあったのか察してくれたようだ。
 その鋭さに、今日だけは感謝!

 ホームに飛び込むと同時に滑り込んできた電車に乗り込み、しばし揺られている間に、どうやって二葉を宥めるか考えてみた。
 多分、俺が体を張るのが一番効果アリなんだろうけど、それは嫌だ。
 二葉はああ見えてなかなか変●ちっくなところがあるからな。
 なにされるか分かったもんじゃない。俺だってまだまだ自分が可愛いんだ。
 解決法は出ないまま、青山1丁目に着いた。
 とにかく、やるしかない! と拳を握り締めた時。
 向こう側の歩道から、大騒ぎしながら爆走する人影が。
「卓也ーっ! 待ちやがれ、コンニャローっ!」
「二葉、落ち着けバカ! 悪かったと言ってるだろう!」
「許さねぇ! 忍のチョコ返しやがれっ!」
「二葉〜っ、お願い、見逃して〜っ!」
「ぜってー殺すっ!」
 ああ…たった今、俺の目の前を、一陣の風と共に通り過ぎていった、あの3人。
 必死の形相で疾走する卓也さんと、その肩に担がれ、泣きじゃくっている小沼。
 そして、目を血走らせ、般若のような形相でそれを追う二葉。
 二葉…卓也さんには内緒だって言ってるのに…。
 そんな、チョコ如きでむきになれるお前も可愛いっちゃー可愛いけど…
 なに恥ずかしいことやってんだよ、この馬鹿。
 呆然としていた俺だが、再び鳴り響いた携帯の呼び出し音で我に返り、急いで通話ボタンを押す。
『しっ、しっ、しのぶぅ…』
「小沼…」
 涙で途切れ途切れの小沼とは反対に、俺の心の中は極めて静寂で、『無』ってこういうことなのかな、と思った。
 脱力した肩から、するりとショルダーバッグが落ちる。
『二葉が追っかけてくるぅ〜! 助けて、忍!』
「うん、今、見た」
『このままじゃ、卓也殺されちゃうよぉ〜』
「車で逃げなかったの?」
『鍵が見付かんなくってっ、探してる間に二葉来ちゃってっ。それで、それでっ…』
「…一樹さん、呼ぼう。それまで卓也さんに頑張ってもらって」
 こんな時、頼りになるのは…そう、一樹さん。
 俺は一樹さんの携帯のナンバーを押しながら、次第に闇の色を濃くしてゆく冬の空を仰いだ。

 バレンタイン…
 今年もまた大変な目に遭ってる俺って…。


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