続・芹沢さんちの慎吾くん《バレンタイン編》
そして夜。
仕事を早めに切り上げてやって来た高槻さんや江端さん、そして正道君も合流して、鍋パーティーが始まりました。
慎吾君をはさんで座った貴奨さんと健ちゃんは……
「ほら、慎吾…骨があるから、気をつけろよ」
「こーら、シンっ。野菜もちゃんと食えっ!」
相変わらず(張り合って)世話をやくのに忙しい二人を見て、残りのメンバーはそっと笑みを浮かべるのでした…。
鍋の中身もあらかた食べ終わり、皆がくつろいだ雰囲気になってきた頃。
慎吾君は、全員の湯呑みにお茶をついでまわりながら言いました。
「あのね、今日、給食の時にね、先生が皆にチョコくれたんだっ。『今日は好きな人にチョコをあげる日なのよ〜。先生はキミ達の事が大好きだから、持ってきちゃったv でも、学校の中で食べちゃ駄目よ?』って、一人に一つかみずつ!」
慎吾君の担任はまだ若い女性で、彼女は徳用チョコの大袋をいくつかこっそり持ち込むと、クラスの生徒に配ったのでした。ホワイト・デイに同じ事を繰り返すのが面倒だったのか、男女平等を意識したのかは分かりませんが…男子にも、女子にも。
「ふ〜ん、イイ先生じゃん。でもその先生、女のコが男のコにやる日なんだ…ってのは、教えてくれなかったんだなー」
自分の椅子に戻り、足元に置いてあったペーパーバッグを取ろうとしていた慎吾君は…何気ない正道君のその言葉に、動きをとめてしまいました。
そう……その中には、チョコレートの包みが入っていたのです。数日前からソワソワしだし、「ねぇ、××君にあげる?」「え〜、内緒v」などという会話をしている女子達から『2月14日は好きな子にチョコをあげる日』というのを教えてもらっていた慎吾君は、昨日のうちに皆へのチョコレートを用意していたのです。
そして、それを渡す為に今日は、皆に集まってもらったのでした。先生の言葉でもあらためて確認し、『よしっ!』と思っていたのに…。
「……ねぇ、慎吾君。知ってる?」
そんな慎吾君の様子を目にとめた高槻さんが、優しい声で言いました。
「外国ではバレンタインって、性別に関係なく『大切な相手』にカードや花を贈ったりもする日だからね…だから本当は、『女の人が男の人にチョコを贈る』とは決まってないんだよ。要は…『想いを確かめあって、感謝しあう日』なんだ」
それを聞いた慎吾君は、ホッとした様にバッグから包みを取り出し、にっこりとしながら高槻さんを見つめました。
「…うん! さすが高槻さん、何でもよく知ってるんだねっ」
その瞳は、尊敬の念にキラキラと輝いています…。
(( ……またか? またなのか…っ?! ))
それを見た健ちゃんと貴奨さんは、嫌〜な予感にとらわれ…慎吾君が「はいっv」と言って渡してくれたチョコレートを、何らリアクションも出来ず、ただボーッと受け取ってしまいました。
無言のまま唇の端で微笑んで、慎吾君の頭にポン、と大きな手を置く江端さん。
「おっ、丁度甘いモン食いたかったんだ。慎吾、サンキュ♪」
悪戯っぽく笑いながらウインクし、早速包装紙を破り始める正道君。
そして。
「有難う、慎吾君。…私も、君が大好きだよ…?」
「……うんっ」
思わず見惚れてしまう程優しい笑顔で、ふわりと慎吾君を抱きしめる高槻さんと、ポッ、と頬を染めて嬉しそうに頷く慎吾君。
(( 今日も、おまえに負けるのかーーっ!! ))
奇しくも全く同じ台詞を心の中で叫びながら、震える手でチョコレートの包みを握りしめる二人組をよそに……ほのぼのとした団欒は、続くのでした。