投稿(妄想)小説の部屋

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No.184 (2001/02/13 07:30) 投稿者:まい

St.Valentine’s Day*2nd stage・1

『ハハキトク スグカエレ』

 2月10日、妙な電報が俺の元へ届いた。『ハハキトク』って…俺の『ハハ』は今、俺の隣で俺と同じように目を真ん丸にしてるんだけど。
 ついでに、『スグカエレ』もなにも、俺は帰宅した途端、母さんにこれを渡されたわけで。
 差出人は、『小沼桔梗』。
 …また妙なことをしてくれた。
 なにか火急の用でもあるのかと、一応奴の携帯にかけてみる。
 番号通知で俺からだとすぐに分かったらしく、小沼は『もしもし』もナシでいきなり
『忍っ、明日俺んち集合! オッケ?』
 ときた。
「集合って…二葉も来るの?」
 二葉とは、テストやらなにやらで、しばらく会っていない。小沼とも、電話で話すのすら久々だ。
『ノンノン。俺と忍だけー。卓也もいないよっ』
「…はぁ? それ集合、って言うの?」
 卓也さんもいない…となると、休みができたのに卓也さんいなくて暇だから俺を召喚、てことだろうか。
『いいから! 忍のことだろうから、どうせなんも用意してないんでしょ! ああ、皆まで言うな、忍のことは、二葉の次によく分かるんだから、俺。いいから、明日…そうだな、できるだけ早く、俺んち来てねっ!』
 奴はまくしたてるようにそれだけ言うと、俺の返答なんて待たずにさっさと切ってしまった。
 明日は祝日だし、特に何の用もないから小沼の家に行くのはいいんだけど。
 でも『用意』ってのは、なんなんだろう。
 そういえば、あの謎の電報もなんだったのか、聞きそびれてしまった。
後方で
「忍、なんだったの、あの電報。やっぱり小沼君からだったの?」
 と聞いてくる母さんに
「良く分からないけど…明日小沼んとこ行ってくる」
 と答え、まだ右手に握ったままだった受話器を元に戻した。

「遅いよっ、もう! はいこれ! 急いでねっ」
 一夜明けて。昼近くに小沼家に到着した俺に、小沼は怒りながら折り畳まれた布…洋服? を投げてよこした。
 それを広げながら、電報について聞いてみると
「ああ、卓也がね、どうしても、すぐに来て欲しい時は、アレを電報で送るのが一番って言ってた」
 …卓也さん…小沼になに吹き込んでるんですか…。
「あのねえ、小沼、『キトク』の意味分かる? …って…なんでエプロン?」
 渡された布を広げてみると、まぎれもなく、それはエプロンで。
「だって、忍の携帯かけてもさ、いっつも電源切れてるし。
 深夜にしか電話できる暇なかったから、家にもできなかったし。
 ホラホラ、早くエプロンつけてね」
「ごめん、試験とかあったから、ここんとこ携帯電源切りっぱなしだったんだ。そんで、なんでエプロンなの」
 それでも言われるままにエプロンをつける俺に、小沼はやっぱりな、って感じで溜め息を吐き、人差し指を俺の鼻すれすれに、ピ! っと突き出した。
「ホラやっぱり忘れてるー! 今月は、2月でしょ? 2月ってゆーと?」
「……建国記念の日。ちなみに、今日」
「だぁ〜〜〜っ! ちーがーうー! バレンタインでしょ、バ・レ・ン・タ・イ・ン!」
 ああ…そっか。忘れてた。ああ、なんか色々思い出してきたぞ。
 確か去年は結構散々なメに遭ったんだよなあ、俺。
「そっか、だから街があんなぴんくぴんくしてたんだ」
 そういえば、来る途中の商店街が赤やピンクの装飾でごてごてしてたっけ。
 待て。なんか分かってきた。なんで小沼が俺を呼んだのか。それから、昨日の『用意』も…。
「まさか…」
「ハーイ! 今日は、チョコレートを作りまーすっ! 俺は卓也に、忍は二葉に、ね? 大丈夫、俺が作り方教えてあげっから!」
「頼むよ〜、小沼〜。俺、女の子じゃないんだから…」
「いいじゃん、ンなこと気にしなーい。アメリカじゃ、男からでもアリなんでしょ?」
「じゃ、なんでチョコなのさ」
「世間の流行にはそれなりに乗っとこうよ、ね?」
 小沼は脱力する俺のエプロンの紐をすばやく結ぶと、そのまま背中を押してキッチンへと誘導する。
 そりゃ…愛を伝え合う日、っていうとそれなりに心惹かれるものの…純日本人の俺にとってはやっぱり、バレンタイン=女の子の特別な日、なわけで。抵抗あるんだよなあ。
「二葉、絶対喜ぶよ? あいつなんも言わないけどさあ、絶対、忍からのチョコ待ってるよ?」
 うん、そう言われると心が揺らぐんだけど…でも。
「しょっぱなから手作りってのはなあ…濃いなあ…」
「濃いのがいいんじゃないかっ! 愛をたーっぷり込めたあまーいのをさ、作ろうよぉ〜」
「二葉、甘いもの苦手だけど」
「大丈夫、チョコはビターを用意してございます」
「小沼ぁ〜、さっきからなんか矛盾だらけだよ〜」
 俺のバレンタインへの抵抗心など、小沼の前では些細なものでしかなく…数分後には、キッチンにて、小沼がどこからか調達したチョコレートの塊を湯煎にかける俺がいたのだった。
 …あーあ…。

 チョコレート作り…いや、チョコレートケーキを作ったんだけど、それは小沼のお陰で至極順調に進んだ。
 ケーキって言っても拳大の大きさで、ビターチョコレートと、ココアパウダーに砂糖も混ぜなかったし、ちょっとだけ味見したけど、必要以上に甘くなくってイイ感じだ。
 隣で見てて感心したんだけど、小沼ってホント、手際いいんだ。
 器用だし。昔は出したら出しっぱなしらしいんだけど、今はもう、一樹さんの如く、ちょっと手が空いた隙に片付けてくんだ。
 一樹さん。
 一樹さんといえば。
「ねえ、小沼。一樹さんにもあげた方がいいかな」
 一樹さんには去年カードもらったし、すっごくお世話になってるし。
 それに、小沼のお陰ですっごく美味しそうに仕上がってるから、ちょっと食べて欲しいかな、なんて。
 でも小沼は眉をきゅっと吊り上げると、すごい勢いで首を振った。
「だめだめだめだめだめーっ! 絶対・ダメ! そんなことしたら、二葉ブチ切れるよっ!?」
「…そ、そかな…」
「間違いなく切れるね! 知らないよ、忍。すんごいおしおきされちゃうよ?」
 確かに。去年のような目には遭いたくない。
 でもなにも渡さないのもアレだから…カードは用意しておこうかな。
「ね、ケーキはもうちょっと冷やしとくだけだからさ」
「うん?」
 さっき小沼に入れてもらった紅茶の最後の一口を嚥下し、カップをソーサーに戻したところで、空いた両手を小沼にぐっと掴まれた。
「卓也にね、バレンタインにあげるプレゼント、まだ買ってないんだよね。これからちょっと新宿行かない? あ、晩飯奢るからっ♪」
 只今午後6時。 これから外出ってのはちょっと遅い気がしないでもないんだけどでもどうせ暇だし明日も休みだし別にいっかなー…っつーか…
「プレゼント、て。ケーキ作っただろ?」
「アレとは別に! ね? いいでしょ?」
「ケーキあるのに? まだなんかプレゼントすんの?」
「そ! そーゆーもんなんだよ、バレンタインって」
「そーゆーもん…なんだ…」
 知らなかった。なんだか知らないうちに面倒なものになってたんだなあ、バレンタイン。
 そういえば不景気不景気って言ってるけど、このシーズンは売り上げ伸びるのかな、やっぱり。
 バブル期と比べるとどうなんだろ…なんて考えているうちに、俺はまたもや小沼に背中を押されて玄関を出たのだった。

 小沼のお気に入りのショップをはしごしたり、夕食を食べたりしてるうちに、9時を過ぎてしまった。
 小沼は散々悩んだ末に抱き枕をセレクトし(なんでも、自分が留守の時にこれを自分だと思って抱いててね、ってことらしい)、俺も一樹さん用にカードと、二葉にビタミン剤を買った。
 小沼はロマンがないってぼやいてたけど、二葉、風邪ひきやすいし。風邪にはビタミンが一番だし。
 それに俺、プレゼント選ぶセンスないし。実用性のあるコレが一番かなって。
 買い物の途中で、今日はこのまま小沼の家に泊ることが決定し、家に電話を入れた。
 ああ、連休っていいなあ。ついでに携帯の留守録を聞いてみると、二葉からのメッセージが残っていた。
 14日、空けとけってメッセージ。学校あるけど、夕方から会おう、って。
 俺の携帯の留守録は1件60秒までなんだけど、二葉は3件分、180秒にも渡って、平日だから泊まりができないってボヤキを延々入れてた。ま、確かにちょっと残念ではあるけどね。
 一応二葉の携帯に電話してみたら、バイト中なんだけど、すぐに出てくれた。
 ちゃんと14日の約束をしたついでに、脇にいた小沼が『二葉っ、楽しみにしててねーっv』なんて余計な事言ってくれちゃったけど。

 事件は、この後起こった。


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