寝台列車
「上に上るのと、下に降りるの、どっちが楽だろう…」
4人で旅行をしようということになって、柢王、桂花、ティア、アシュレイは寝台列車に乗っていた。
桂花が幹事のこの旅行は、個室はお金がかかるから、という理由でB寝台だ。
B寝台はやっと一人眠れるくらいの広さのベッドが、上下2段になっている。
そして人が一人通れるくらいの幅の通路を間にして、同じ2段ベッドが左右についているのだ。それが一区画で、同じように並んでいる。
ベッドはカーテンで仕切られるのみで、話し声などは筒抜けだ。
今、4人で話しているのは、誰がどの位置に眠るか、ということだった。
ティアの天才的頭脳は休むことなく働いていたが、いったいどの位置が一番いいのか答えが出ない。
「だいたい寝台列車っていうからもっと綺麗なものかと思ってたのに…」
こともあろうか、自分の寝台のようなものを彼は想像していたらしい。
考えているうちに、アシュレイが「俺は上に行くぜ」と言って、ベッドについているはしごを上り始めた。
「猿となんとやらは高いところが好き…と言いますからね」
桂花の言葉にぎゃあぎゃあと怒っているアシュレイを見ながら、ティアは決断した。
「私も上にするよ」
え? と柢王と桂花がティアを見つめる。
「お、おまえは桂花と下に寝ろ。な?」
柢王が苦笑いをしながら言う。
「吾はどこでもいいですけど…。上はうるさそうですからね」
と桂花が言うと、上からまたアシュレイの騒ぐ声がする。
「俺とアシュレイが上。おまえと桂花は下。それで決まりだ」
そう言って上に上ろうとする柢王の服をひしっと引っ張って、ティアは引きとめた。
自分として動きやすいのはやはり下だ。
出来ればアシュレイと二人で下の段に寝たいのだが、
(いろいろ都合がいい…とティアは思っているようだ)
アシュレイが上がいいというなら仕方がない。
まあ上なら上で逃げようもないからいいだろう。
そうして柢王を説得して、アシュレイは右側の上のベッドに。
ティアは左側の上のベッドに。
柢王と桂花はそれぞれ右と左の下のベッドに落ち着いた。
消灯時間。
寝返りをうったアシュレイの足が、必死で彼のベッドまでたどりついたティアを蹴飛ばした。
落っこちてきたティアを、左側のベッドで目を覚ました柢王と桂花が、哀れな目で見つめていた。
「やはり下にすべきだった…」