柢王の呪いを受けた(笑)、続・弧月愁々
あの直後、周囲のものが血相を変えて二人を引き剥がさなければ、自分はどういう行動を取っていたのだろうか。
床に座り込んだまま、気を抜くとふるえ出す両手を握り締め、桂花は細く息を吐いた。
「…いっそ、あのまま殺してもらったほうがよかったか…」
剣を取り上げられ、引き離されながら叫んだ、カイシャンの、あの、言葉。
「なぜ俺を見ようとしない、桂花!」
俺はここにいる!ここにいるのにーーー!
目をかたく閉じ、ふるえる両手で耳をふさいでも、あの、血の迸るような悲痛な叫びと表情は消えてはくれなかった。息苦しさに座っていられず、横倒しに床に身を投げ出す。ふるえのおさまらない両手を胸元まで引き寄せ、硬く握り合わせる。
「カイシャン様…」
わかっている、わかっていたはずだった。彼は柢王ではない。柢王の、魂と肉体を持っていても、カイシャンは柢王ではないのだ。
「…そんなつもりじゃなかった…。吾は、あなたには、悲しみや、さみしさなど、知ってほしくなかった。だから…」
周囲から愛され、愛されているという自覚を持ちながらも、たった一つ、生みの母親に疎まれたがゆえに、心の拠り所を見つけられない、あわれな子供だった。
だから、せめて、彼の心を守ろうと思ったのだ。
彼に関わることに迷い、迷い続けながら、名を呼ぶ声に、向けられる笑顔に、指を握ってくる手に、柢王の面影に、引きずられるようにして、ここまできてしまった。
「…吾は、それほどまでに、あなたを傷つけていたのですか…?」
守るつもりが、傷つけて、傷つけて、ここまできてしまった。
そして、そばにいる限り、これからも傷つけ続けることになる。
…もう、そばにいられるはずもなかった。
離れなければ。そう思った。
「離れなければ…」
口に出してつぶやいたとたん、苦いものを含んだように、歯を食いしばる。涙が、ひとすじ、ふたすじ、とすべりおち、ふるえる両手で目を覆った。
パオの布地をたたく、遮るものとてない草原の、秋の夕暮れ時の、物悲しい声で叫ぶ秋風から逃れるようにして、桂花は子供のように身を丸めた。
…離れなければ……