通りにて 2 (後)
「あなたは食べないんですか?」
鷲尾がアイスクリームを1つしか持っていないのを見て、絹一はそんなつもりもないのだろうが残念そうな顔で尋ねた。
「ん? 勿論食うさ」
「だって、1つしか…」
「1つだって、ふたりで食えるだろうが」
鷲尾は絹一の腰を引き寄せると同時にアイスクリームを一口かじり、そのまま絹一の無防備な唇に押し当てた。
平日の昼間、人は少ないが皆無ではない。東洋人だというだけで、自然視線も集まる。だが鷲尾はそんなことを気にする男ではない。誰よりも絹一(それで絹一が喜ぶ、という訳では必ずしもない…)、という男だ。
絹一の両手が背中に回って、コートを掴んで引き剥がそうとしている。
それを感じながらも、鷲尾はアイスクリームを、というより絹一の唇を、存分に味わった。
「うまい」
「………っ、鷲尾さん!」
唇を離された瞬間、絹一は抗議の声を上げた。
鷲尾は気にせずまだ絹一の唇についているアイスクリームを左手の親指でぬぐい、自分の口に運んだ。
絹一の顔がまたかっと赤くなる。
鷲尾がわざと挑発していることに、絹一は気付かない。だからこうも素直に反応を返してしまうのだ。
「聞いてるんですか? 鷲尾さん!」
聞く耳持たずで歩き出した鷲尾に、絹一は抗議しながらも後ろについてくる。
顔など見たくないと言ったのはいつのことだったか。
「昨日から何なんですか。手を繋ぐくらいならまだしも、ひ、人前で……っ」
「お? 手を繋ぐのはいいのか? じゃあ繋ごう」
と、絹一が慌てる暇もないほど見事な手つきで手袋を剥がし指を絡め、昨日と同じ場所にふたりの右手と左手は収まった。
「鷲尾さんっ! ふざけないで下さい!」
「ふざけてないぜ」
不意に真顔で囁かれ、絹一はまたしても流されてしまう自分を感じた。
感じながらも、そんな風に自分に甘えてくれる鷲尾が愛しい。甘やかされるよりも甘えられた方が心地いい。
アイスクリームをかじりながら半歩前を行く恋人は、誰よりも大切な存在なのだ。
静かになった絹一に鷲尾が食うか? と無言の瞳で聞いてくる。
それには応えず絹一は鷲尾の耳元に唇をよせ、鷲尾には分からない何事かを囁いた。そしてアイスクリームを奪い、不思議そうな顔の鷲尾に満足しながら、今度は絹一が半歩前を歩き出した。
Я вас люблю,боьше всех………