祈りのあした
頬に風が触れて、柢王は眼を覚ました。
いつもよりも暖かい布団。それに、桂花が隣で寝ていることを思い出す。
そっと身を起こして、傍らの寝顔を見つめる。桂花の寝顔を見るのは、これがやっと二度目だった。
昨夜初めて、桂花と枕を交わしたのだ。
聖水を飲まされて、三日間も意識不明だった桂花を、目覚めたその日のうちに押し倒した。強引だったのは承知の上で、それでも欲しくてたまらなかったのだ。
眠っている桂花は、とても静かだった。いつも周囲に張り巡らせている刺の存在が嘘のように。
・・・治りきっていない体に無理をさせられたせいで疲れているのだろう。
ただそのためだとわかっていても、柢王は桂花の寝顔を見ていられるのが嬉しかった。こんなに無防備な姿を、柢王はずっと見たかったのだ。
桂花の右腕をとり、紫微色の肌に刻まれている白い傷跡に唇を押し当てる。
桂花が自分でつけた傷だった。
白い髪を撫でていると、桂花が眼を覚ました。とたんに身をこわばらせ、柢王の手を払って起き上がろうとする。だがそれは果たせず、逆に柢王の腕に支えられる羽目になった。
「起きたか、桂花。気分はどうだ? どっか苦しいとこないか」
桂花は無言で柢王にきつい視線を向ける。
その反応に苦笑しながら、柢王は桂花を再び寝かせてやった。
「食欲あるんだったらなんか作るけど、食えるか?」
「ほしくない」
桂花にとって、体の関係など、何も特別なことではないのだろう。
ふいっと顔を背けてしまった桂花の顔の両脇に手をついて、覆い被さるように覗き込む。
「桂花。間違えるなよ。俺は、おまえの体も、欲しいんだからな」
返事はない。
柢王は、桂花を誰にも傷つけさせたくはなかった。桂花自身にも。
綺麗な体も、孤独な心も、天界人だけでなく桂花からも守ってやらなければ、それは果たせないのだと気づいていた。
桂花に伝えたいことはたくさんあるけれど。言葉だけでは伝わらなくても。
・・・もっと自分を愛しめと、それをまず伝えたかった。