I Wish
風が二人の間を通り抜けて行く。
10月も半ばに入って、急に涼しくなったみたいだ。
半袖とかだと、涼しいを通り越して、肌寒いよ。
すすきが風に揺れて、空を見上げるととんぼが飛んでる。
俺の隣には健さんがいる。
健さんの顔をちらりと見ると、彼は涼しげな顔で煙草をふかしていた。
もう、俺と健さんの背丈の差はほんの10cmほどもない。
大好きな大好きな健さん。
会いたいときに会えるっていうことがこんなに幸せなことなんだと俺は健さんの顔を見つめながらしみじみ思った。
「ん? どした?」
視線を感じたのか、煙草をくわえたまま俺の顔を覗き込んでくる。その仕種に俺はなんでもないと笑った。
今日は健さんの誕生日で、ほんとは夜からお祝しようって思ってたんだけど、昼間、こうして歩くことも珍しいかなってそう思って散歩に誘ってみたんだ。
土手から見下ろす河原には子供達がとんぼ取りに夢中になっている。
健さんも子供のころ、とんぼとかとったりしたのかな。
健さんの子供の頃って想像があんまりつかないけど、でもいつの時代も健さんは健さんでしかないように思う。
一緒に誕生日を祝えるってことがすごく嬉しいことなんだって俺ははじめて知ったような気がする。
去年も、その前もその前も、俺は健さんの誕生日を一緒に祝ってあげられなかったから。
だから、今日は一日中健さんと一緒にいたかった。
少し前を歩いてた健さんが立ち止まって空を見上げる。
「どうしたの?」
「空がたけーなぁ」
「そうだね。もう秋だね」
一緒になって、俺も空を見上げた。羊雲が夕陽に照らされて、赤く染まっている。
健さんの髪は夕陽に染められて、金色に透けていた。
「ね、健さん、今日は何食べたい? 俺なんでもごちそうするよ? やっぱり焼肉?」
少し淋しげに見える健さんに俺はありったけの笑顔を向けて、そう聞いた。
「焼肉もいーけど、もう少し歩こうぜ。なんだか、気分がいいや」
健さんはそう言って歩き出した。
髪を風になびかせて、煙草をふかしながら歩く健さんはすごくかっこよかった。
「シ〜ンっ、置いてくぞ〜」
後ろ姿に見とれたまま、身動きがとれなくなった俺に、健さんは叫ぶ。
俺は早足で健さんに追い付くと、しっかりと手を握った。
少しびっくりした顔で健さんは俺を見たけど、フッと笑って、俺の手を握り返してきた。
誰が見てたっていいや。そんなこと、関係ない。
最初は憧れで、喧嘩も、煙草を吸う仕種も、いろんな遊びを知ってることもすごくすごくかっこいいって思ってた。
でも、いつからか、俺は健さんと肩を並べて歩けるようになりたいって思ったんだ。
健さんにいざっていうときに頼りにされるような…。
今すぐは無理でも、何年でもかける覚悟は、俺あるからね。
もう、絶対にあなたを一人にしない。あなたを支えられる男になるから。
だから、来年も再来年もその次もずっとずっと、あなたの誕生日を一緒にお祝させてほしい。
大好きな健さんへ、お誕生日、おめでとう。