投稿(妄想)小説の部屋

ここは、みなさんからの投稿小説を紹介するページです。
投稿はこちらのページから。 感想は、投稿小説専用の掲示板へお願いします。

No.123 (2000/09/24 20:23) 投稿者:理由無き反抗家(笑)

鉛球発射の偽者天使の美辞麗句

「なんでだよ・・・」
 俺、慎吾は帰りの遅い貴奨を待って、ダイニングテーブルのいすに腰掛け駄々をこねる子どもみたいにブラブラと足を揺らしている。
「一緒に・・・夕飯食おうと思ったのに・・・な」
 ふ、と足を揺らすのをやめてフローリングにぴたりと足を下ろす。
「冷たい・・・」
 そういえば俺の目の前においてあるシチューも、もう冷えたんだな。と思った。なんかすげえ寂しいよ・・・健さん。
「健さん」
 口から出た後、自分に唖然とした。なんて遠いんだろう。
 でも彼の名前は俺の心を励ましてくれる、何ていうかおまじないみたい。安心するんだ。こんなこと健さんにいったら怒られそうだけどね。それとも『それだけ?』なんて甘えた顔して擦り寄って、にやりって耳元で笑ったりして・・・。
「俺、何考えてんだっ! バカバカ!」
 ぶんぶん首を振って頭の中で考えていたことを隅のほうへ押しやる。
「でも・・・やっぱ・・・好きだなあ」
 俺の頭の中は健さんだらけだよ。本当に早く会いたい。そしていっぱいいっぱい「好き」って云ってやるんだ。
「健さん・・・」
 呟いて、遠くにいるのわかるんだけど、呟いて。
 でも愛してるって言葉で健さんを殺したくないと思う。でも俺はそんぐらい愛される方がいいな。そんぐらい健さんの心の足りないところを俺で満たしてやりたいんだ。
 大丈夫、大丈夫って心の中で思うと、逆に寂しくて泣きたかった。泣くのなんて簡単だ、泣いたって何の解決にもならないなんて云うヤツいるけどさ。泣いたっていいじゃん。
 でも俺は泣かないよ。健さんに会ったときに俺の涙、いっぱいあげるんだ。あの人だけのために泣いてやる。あの人だけのために。
『泣くなよ、慎吾』ってあの人は云うだろうか。それとも黙って頭なでてくれる?
「あ・・・涙、舐めたりして・・・」
 ・・・健さんならしそうだと思って、くふふと笑って冷たいフローリングにつけていた足をいすの上に乗せて、ひざを抱え込む。
 俺はまだ大丈夫。
「健さん」
 最後におまじないみたいに唱える。愛しくて、愛しくてたまらない。

 がちゃりと玄関をあける音がした。
「き・・・しょ・・・う?」
 何秒かたって貴奨が上着を片手に携えて俺がいるダイニングのドアを開けた。
「何だ寝てなかったのか?」
「うん・・・何? またこれから出るの?」
「ああ、服を取りに戻っただけだ。お前はさっさと寝るんだな」
「ん・・・」
「おい慎吾。ここで寝るな」
 貴奨は云い聞かせるように俺のあごを片手でくいっと上げた。
「ん・・・もう寝るから・・・さ・・・」
「ああ」
「ん・・・ありがと」
「何が?」
「何でも」
 貴奨が変な顔したのが、まぶたが閉じててもわかった。

『健さん・・・俺は大丈夫。心配しないでね。』
 心の中でそっと健さんに手紙を書いた。
                        慎吾


投稿小説目次TOPに戻る