投稿(妄想)小説の部屋

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No.116 (2000/09/12 15:00) 投稿者:皐月

桜語り 7

 若者は花霞が落ち着くまで、ずっと髪を撫で、名を呼んでいました。
 細い身体を震わせて泣く花霞に、愛しさは募るばかりです。
 ふたりの体温が混ざり合って、ずっと昔からここが帰る場所だったのだと、やっと思い出せたような気がします。
「桂花」
 体が離され、温もりが遠ざかった淋しさに俯いていると、顎を持ち上げられました。
 涙に濡れた顔を見られるのがいやで、少しの抵抗をしますが、簡単に若者に躱されてしまいました。
「桂花」
 もう何度、この名を呼ばれたでしょうか。
 頬を両手で包まれ、若者の唇が、花霞の額に落ちてきました。
 瞼に、鼻に、そして最後に唇に……。
 そうしてふたりは誓いを交わすのです。
 全山の桜に見守られ、永遠の誓いを交わすのです。
「愛してる……」

     ねぇ、おばあちゃん。どうして桜は綺麗なの?
     そうさねぇ…。むかーし昔の話じゃよ。この山には鬼が棲んどっての…。
     ひとりの人間の若者と恋に落ちてなぁ。ふたりは幸せに暮らしとったんじゃ。
     ふたりが幸せじゃと、桜も綺麗に咲くのさね…。…桜の木ぃはわしらの
     幸せを喰って生きとるんじゃよ。
     ふーん。じゃあ、かすみが幸せだったら、桜はもっと綺麗になる?
     そうさね…。桜の木ぃが、おまえさんの幸せが欲しいと言うとるわ……

 昔、丹後の国の山奥に、ひとりの鬼がおりました……
 桜に棲むその鬼は、紫微色の肌と白く長い髪を持った、美しい美しい鬼でした……
 鬼の名を、桂花………


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