投稿(妄想)小説の部屋

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No.109 (2000/08/31 01:36) 投稿者:なおこ

消えない花火

 夏休み最後の土曜日。
 ティアランディアに誘われて、アシュレイは海辺の花火大会に来ていた。
 小さい頃から友達だったけど、二人だけで花火を見に行くなんてことは初めてだった。
 着慣れない浴衣が少し苦しい。
 アシュレイは襟元をゆるめようとしたが、もしかしてこれは、二人きりという雰囲気に緊張してるだけなのかも…と思った。
「とても似合ってるよ、その浴衣」
 微笑みながらティアランディアにそう言われると、アシュレイはなんだか恥ずかしくなった。
 おまえの方が似合ってるじゃん…と言い返したけど、せっかく誉めてもらったから、やっぱり襟元はそのままにしておいた。

 海辺についた二人は砂浜にシートを広げて、自分達の場所を作った。
 花火があがるまで、あと1時間。
 ずっと波の音を聞いているのもいいな…とティアランディアが思ったとき、隣から「ぐぅ」という音が聞こえた。
「…んだよっっ!! その目はっっ!?」
「…何か買ってこようか? ここに座っててくれる?」
「俺も行く」
 立ちあがったティアの手を引っ張って、アシュレイも立ちあがる。
 こんな浮かれた場所じゃ、何があるかわからないから。
 自分がついててやらなきゃ、とアシュレイは思ったのだった。

 たこ焼き(アシュレイ希望)と麦茶を買って戻ってきた二人は、あつあつのそれを分けあった。
「あち、あち、はふっ、んっ、うまいっ♪」
「ん、おいしい♪」
 ここのたこ焼き、タコが大きくって当たりっ! と喜んでるアシュレイを見てると、ティアランディアも嬉しくてたまらなかった。
 そんなに好きなら今度作ってみようかな…などと考えてしまうほどに。

 お腹もいっぱいになって、風も涼しくなった頃、少し眠気がやってきて、とろ…となった時だった。
「あっ…」
 夜空に1つ、大きな花火があがった。
 それを合図に、次々と打ち上がる花火。
 夜空と海の境もわからないくらい、空には大輪の花火が、海には散りゆく花火の光が、揺れていた。
 アシュレイはその光景から目が離せなくて…。
 ティアランディアが、そんな自分をじっと見つめていることにも気がつかなかった。
 花火に見惚れているアシュレイの横顔を、ティアはずっと見ていた。
 アシュレイは口を少し開けたまま、吸い込まれるように花火を見続けている。
 そんなアシュレイを見ているだけで、自分は嬉しくて幸せで。
 おまえと一緒に見れてよかった…と心の中でつぶやいてた。

 ティアランディアが、花火に視線を戻したとき。
 アシュレイは、ティアの方を向いた。
 こんなに綺麗な花火、生まれて初めて見たような気がする。
 何度か友人同志で見に来たりしていたけど、そのどれとも違う感じがする…とアシュレイは思った。
 もしかして…隣にいるのが、一緒にいるのが彼だからなのかな…と。
 ティアにはどんな風に見えてるんだろう、この花火…。
 そう思ったら知りたくて、聞いてみたくて、横を向いていた。
 だけど、聞こうとしたけれど…、何て言っていいのかわからない。
 それに…花火の光がティアランディアの横顔を照らし出して、あんまり綺麗で…。

「そろそろ終わりかな」
 ティアランディアの言葉通り、花火は最後の仕掛けに入っていた。
「なに? どうなるんだ?」
 アシュレイがそう言うと、ティアは笑いながら内緒…と言った。
 その瞬間。
 花火が真上から自分達に降ってきた。
「うわあ…!!」
 海も空も目に入るものすべてが、降りそそぐ花火の光に染められて、どこか違う世界にいるみたいだった。

 そしてこの夏最後の花火大会は終わった。
 真っ暗な夜道を二人で並んで、ゆっくり歩いて帰る途中、ティアが言った。
「…花火に見惚れてたね。楽しかった?」
「うん」
「おまえと見たかったんだ、二人で」
「…恥ずかしいこと言うな」
「おまえはどう思ってたの?」
「…俺は」
 自分が聞きたかったことを、彼から聞かれてしまった。
 どうしよう、正直に言ってもいいんだろうか。
 アシュレイは少し迷った。迷ったけれど―――。
「俺は、おまえと見れてよかった。忘れない、この花火は」
「…ありがとう、アシュレイ。私も忘れない」
 自分の言った言葉に赤くなって視線をそらしたアシュレイは、
 ティアランディアの言葉を聞いて、もっと赤くなった。
 だけど、ティアがどんな顔をしているのか見てみたくって…。
 視線を少しだけ戻すと、嬉しそうに笑ったティアの顔が見えた。


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