オモウトオリニナラナイ・・・四
気がついたら、俺は誰かの腕に抱きしめられてた。
「泣くほど痛いなら、どうして早く言わない!」
一瞬、健さんかと思った。でもこの腕は貴奨の腕だった。この匂いは貴奨の匂いだった。
貴奨は絨毯に膝をついて俺を抱きしめてた。
俺、床に転がってうめいてたのか。
「また胃が痛むのか?」
背中をさすってくれながら貴奨は言った。
「わかん・・・ないよ。お腹痛い・・・でも胃なのか・・・な」
俺は貴奨の肩に頭をもたせかけた。
貴奨は俺の背中をぽんぽん叩いてくれてから、俺をベットに座らせた。
「着替えてくるから、病院行くぞ」
自分が着てたカーディガンを俺に掛けてくれる。
俺は痛みのせいじゃなくて涙がでた。
すごくほっとした。もう大丈夫だって。
「ごめ・・・明日も、早いのに」
部屋を出ていく背中に言ったら、
「病人が何を言ってるんだ」
と睨まれた。
でも俺は笑ってしまった。
もう大丈夫だ。
ごめん、貴奨・・・。
今日だけだから。でも、ごめんな。
「今日の当直医は中村医院だ。よかったな、10分で着くぞ」
俺は貴奨に肩をかりて歩きながら、
「何でそんなこと知ってるんだ?」
思わず聞いたら、また睨まれた。
「コンシェルジェが当直医ぐらい知っていなくてどうする」
俺は痛みをこらえて貴奨を見上げた。
「いつどんなことが起こるかわからないだろう」
貴奨は軽く俺の頭を小突いた。
また激痛が迫ってきていた俺は、うなずくだけしかできなかったけど、また別の貴奨の一面を知ったような気がしていた。
俺は病院に着くまでに2回の激痛の波を耐えた。
だんだん息が荒くなってく俺を、貴奨はさすがに心配そうに横目で見てた。でも話し掛けるより病院に早く着くほうを優先してくれたらしくて、後できいたら5分で着いたんだそうだ。眠そうな目をした先生に注射を1本打ってもらったら、痛みは嘘みたいに治まった。
あの痛みはなんだったんだ、って感じだ。
「お前は胃が弱いんだから、きちんと自己管理しろ」
貴奨はちょっとだけベットで横にならせてもらっていた俺の横に座って、1言そういっただけであとはもうなにも小言は言わなかった。
「貴奨、ありがとう」
病院のベッドの横で、一瞬だけ居眠りした貴奨に、俺はそっと呟いた。
ほんとに、ありがとう、貴奨。