ブレイク・ブレイク・カップル3
一方的に別れを突きつけられて、やっぱりさすがに傷ついた。
愛してるって言ってくれたのに、その気持ちに嘘はないだろうに、これ以上嫌われたくないから別れる。そんな勝手な忍の言い分に、次会ったら怒鳴りつけてしまいそうで、でもそんな事をしてことをこじらせたくなかったから、しばらく距離をおいて頭を冷やそうと思っていた。
でも、会えない日々に比例して、忍への想いや会いたい気持ちはつのるばかりだった。
こっそり学校まで見に行ったこともある。
ただでさえ細いのに、さらに痩せたようで痛々しかった。
(限界だなー・・・)
ローパー上の事務所に向かいながら、二葉はぼんやり考える。
ドアを開けたとたん、桔梗の高い声が耳を打った。
「なんでもいいから、先輩、朝井の住所教えてよ! 世間話なんかいいんだってば、先輩のバカ! 知ってんだろ、朝井の住所!」
「なんだあ・・・? 朝井?」
聞きたくはない名前に眉をひそめた二葉に、桔梗の横に立っていた一樹が声をかけた。
「来てたのか、二葉。いいところに来た。手伝ってくれ」
「あ? なんかあったのか」
「大アリだよっ! 忍が朝井に拉致られた!」
受話器を荒々しく叩きつけた桔梗が割り込んでくる。
「忍が自分で朝井君の家に行ったんだから別に拉致じゃないだろう。住所わかったのか?」
「うん。一樹車出して。二葉! なにボケッとしてんだよ。忍迎えに行くんだよ!」
「おい、待てよ、忍が朝井ん家にいて拉致? どういうことだよ」
「だから睡眠薬飲まされちゃったの! アイツなにもしないったけど、分かったもんじゃない!」
「睡眠薬!? なんだそれ! ふざけんじゃねーよ!」
瞬間沸騰した二葉も桔梗の後を追った。
あっちは別れたと思っているかもしれないが、忍は今でも二葉の大事な恋人だ。それを一服もっただとう!?
キレて騒ぐうるさい二人を黙らせた、車中の一樹の一言。
「忍はホントに薬飲まされやすい子だね。かわいそうに。そういえば、おまえたちも昔やったんだっけね」
「・・・(汗)」
それからは怒涛の展開だった。
二葉だけが朝井宅に乗り込んで、お姫様奪還を決行した。
朝井は奇跡的に忍に手は出していなかったようなので、殴るのは勘弁してやった。
「ふたば」
呼ばれて忍を振り向いたら、寝言だった。
胸が、締め付けられる。
「おまえら恋人同志だろ? 池谷、さっきもおまえの名前呼んでたんだぜ。それも辛そうに。何があったかしらね―けど、さっさと連れて帰れ。ちゃんと寝させて食べさせて、この半病人状態何とかしろ」
朝井に真剣な顔で言われて、二葉は忍に歩み寄った。
「ふたば」
また、呼ばれる。今度は泣いていた。
「忍」
ああ。俺たちはこんなにもお互いを求めてた。
会いたかった。
「忍。帰ろう」
俺たちがあるべき位置に、かえろう。
「おまえは寝てていい」
そう言って、二葉は忍を抱き上げた。最後に抱いた、半年前より格段に軽くなっているのが悲しかった。
事務所にふたりきりにしてくれた一樹達に感謝しよう。
『忍は苦しんでたよ』
うん、わかってる。
こいつは俺のこと愛してるんだから。
「・・・ん、え・・・?」
「あ、起きたか?」
「え、ふたば・・・?」
「ここ事務所だから。心配すんな」
まだ夢うつつらしい忍は、焦点の合わない眼で二葉を見た。
「夢だったのかな」
「なにが」
「二葉が俺とわかれた後で、悠と付き合い始めて、俺が名前呼んでも振り向いてくれなくて。俺のエゴで別れたのに、すごく悲しかった。でも俺にそんなこと言う資格なんてないんだ」
だから泣いてたのか。
バカみたいだ、俺たち。お互いこんなに好きなのに、なんでもっと早く素直になれなかったんだろう。
「忍、それは夢だ。でもこれは現実だ。聞けよ。俺が好きなのは今もこれからもおまえだけだ。悠は恋愛対象にはならないんだ。おまえが気にするなら、悠との接触も減らす。悠よりなにより、俺が大切なのはおまえしかいないんだ」
それに、と隠れた本心を明かす。
「おまえがヤキモチやいて、悠との事とか問い詰めてくれるの嬉しいんだ。愛してくれてるって証明だろ? それにおまえが不安になるたびなだめて安心させるのも好きなんだ。おまえが不安になったり安心したりを俺の言葉や態度でするんだぜ? これってすげえことじゃん?」
「―――怒ってないの?」
完全に目が覚めたらしかった。おずおずと訊かれて、二葉は忍を抱きしめる。
ずっとこの腕の中に抱きたかった存在。
なににも変えられないから。だから。
「怒ってるよ。でもおまえがいくら俺の手から逃げようとしたって追いかけて捕まえるさ。愛してるからな。どんな醜いおまえでも、おまえである限り好きなんだから離さねえよ」
おまえは? と泣き出した忍の耳元に囁きかける。
おまえはどうなんだ、と。おまえの本音が聞きたいんだ、と。
「好きだよ。愛してるよ。ずっと会いたかったんだ。会いたくて死にそうだった。おまえに嫌われてもそばにいたかったんだ。いたいんだ」
「それでいいんだよ」
甘く囁いて、二葉は忍を抱きしめる腕に力をこめた。
愛してるって、何回でも囁いて。
ヤキモチいっぱいやいて。
何度でも抱き合って。
どんなに辛くてもおまえがそばにいればそれでいい。
どんなに醜いおまえでも、それは俺のためにそうなってるんだ。
そんなおまえが愛しくてたまらないから。
だから離さない。
何度でも愛してるって言って。
そうしたら同じだけ返すから。
終わり