磐石
ティアが書類に目を通す。
桂花はその隣にグラフにした資料を差し出す。
ティアはそれを受けとり二枚を見比べると、何やらサラサラ書き足し桂花に返す。
桂花はファイルしながら次の書類を渡す。
しばらくして書面に眉を寄せるティアを目の端に捉える。桂花は処理済の中から何やら取り出す。ティアはそれを綴じ脇に置く。
ティアが前髪を軽く掻きあげる。
桂花はスッと立ち上がると僅かに窓を開けた。
万事この調子の二人を柢王は少し離れた長椅子からジッと見つめていた。
始めは面白げに見ていたものの、今や柢王の眉間にはクッキリと縦皺が刻まれていた。
「守天殿。休憩にしましょうか?」
「ああ、ちょうど喉が渇いてたんだ」
ティアは顔を上げ微笑んだ。
サッと桂花がお茶の仕度にかかる。
そこへ扉が叩かれ使い女があらわれた。
「守天さま、蔵書室管理資格試験の内容を見ていただきたいと八紫川さま方がおっしゃってます。お通ししてもよろしいでしょうか?」
「いや、私がそちらに行こう」
桂花は休んでいてと告げるとティアは扉から出て行った。
桂花は構わずお茶を二杯淹れると柢王の前に一つ差し出した。
柢王は黙って受け取るとグッとそのお茶を飲み干した。
お茶は柢王の好みの熱々だった。ティアの代理でないのに柢王の縦皺もわずかに浅くなる。
いつもなら残りモンでも何でも腹に入りゃ変わらねェーって性分なのだが、こと桂花に限り余りものなどいただけない我侭者だったりする。
「お腹・・・すいてるんですか?」
「腹なんかへっちゃいねぇー」
と同時に柢王の腹の虫がグルルルルルと鳴った。
「・・・すいてたんですね」
呆れながらも桂花は続ける。
「こちらで食べます?」
「―――帰ろう。おまえが作ったの食いたい」
柢王は立ち上がるとペンをサラサラ走らせ、書きつけたメモをティアの椅子の上に載せた。
そして桂花の腕を掴み外に出ようとしハタと立ち止まる。
「・・・???」
当惑顔の桂花を柢王は見つめる。
「けど、帰ったら食いたいもの変わるな・・・そっち喰ったらメシの方は食えねーし・・・」
当分、足腰たたねーだろうから・・・と続けたところでバシッと桂花に頭を叩かれた。
「なんだよ!! こっちは下界から帰ってきたばかりなんだぜ。欲しいのはあたりまえだろっ」
恥じらいもなく続ける恋人を睨めつけつつも桂花は先を続ける。
「腹がへっては戦はできぬ・・・って知ってます?」
夜半過ぎ、珍しく熟睡している桂花を見て柢王は満足そうに口角をあげた。
その美貌を見つめながら天主塔でのことを思い返す。
ティアに嫉妬したわけじゃない。
桂花の有能さを客観的に見て心が揺さぶられたのだ。
だが同時に東端の家につくなり卓いっぱいに料理を並べたて、それを片っ端からかたづける柢王を呆れたふりをしながら見ていた桂花の姿を思い出す。
作り物ではない彼の自然な微笑みを。
「やっぱり腹がへってたのかぁ・・・」
珍しく弱気になった己を叱咤し柢王はつぶやく。
柢王の迷いは何よりも桂花を不安にする。
もっと強くならねばと眠る桂花を抱きしめ柢王は目を閉じた。