投稿(妄想)小説の部屋

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No.13 (2006/02/18 20:34) 投稿者:碧玉

春一番

★下記は『メモリー・カクテル』という、川原の邪道同人誌が元ネタのパロディです。
 ネタバレが……な方は、避けて下さい。(ローザリウムスタッフ)

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 ボトッ、バラバラッーーーーーー
 窓枠に赤い実のついた小枝が落とされる。
 ―――ぴっ!!ぴぃぃぃぃーーーーー
 声にならない悲鳴(鳴声)をあげ冰玉は落とした小枝に見向きもせず一目散に飛び去った。

「――――冰玉?」
「なんだ?」
「いま、冰玉の声がしませんでしたか?」
「そういや聞こえたような、聞こえなかったような・・・」
「それでも元帥ですか」
 呆れた言葉であるものの響きは甘い。
「いやーーーなんたって酔っ払い状態だからなぁ〜、極楽、極楽」
 黒髪の男、いや、青い小さな塊が紫微色の腕の中で気持ちよさげにつぶやく。
「柢王、いい加減にしませんか?」
「えーー、もうちょっと」
「ハァー」
 桂花はため息をつくと腕の中の冰玉・・・正しくは龍鳥に変化した柢王をそっと撫で上げた。

 南と東の境にある大木に見覚えある姿を見つけアシュレイは立ち止まった。
「あれ、おまえ・・・冰玉?」
アシュレイは眉を寄せる。人違いならぬ、鳥違いか?
 アシュレイがそう思うのも無理なかった。冰玉といえば、柢王や桂花のまわりをいつも元気に飛び回るやんちゃな甘えん坊なのだから。だが、目の前にいる龍鳥は元気はなく震えている。心なしか羽の艶も悪い。
「ケガしてんのか?」
 言葉と同時につかみあげる。
「ぴっ!!ぴぴぴぴぴ!!!!!」
驚き羽をバタつかせ抵抗する冰玉を軽く押さえアシュレイは青い体を調べる。
 念入りに見たものの外傷はない。
 なら病気か?
 まだフワフワ羽の残る頭をそっと撫でてやる。
 安心したのか、さっきまで暴れていたのが嘘のように冰玉はアシュレイに抱かっている。
 柢王の所に連れていくべきなんだよなぁ・・・けどアイツに会うのヤダし・・・けど冰玉をこのまま放り出すのもなぁ・・・。アシュレイは途方にくれる。
 ティアなら・・・そうだ!! ティアに預かってもらおう。
 偶然ながら姉のグラインダースから本の返却を頼まれたところだ。
 なら善は急げ。アシュレイは冰玉をマントに引き入れると天主塔に向って飛び上がった。

「桂花の取り合い!?」
 ティアとアシュレイは脱力した。
 そんな二人を前に、呼び出された柢王が淡々と説明を続ける。
「だから冰玉は桂花に抱かれていた龍鳥に嫉妬したんだ。あ、その龍鳥って俺なんだけどさ」
「なにバカなことしてんだよっ!!」
 アシュレイは怒りで我に返る。
 このままじゃ話が進まない。怒り狂うアシュレイをひとまず押さえティアが割り入る。
「えーっと、つまり冰玉は桂花に抱かれているおまえを新しい龍鳥だと思い、桂花を取られたと妬んだってこと?」
「ま、そんなとこかな」
「なんで龍鳥なんかに変化するかなぁ〜・・・」
 あまりのバカバカしさに頭痛がし、ティアはこめかみを押さえる。
「褒賞、褒賞。桂花と掛けの」
「褒美が魔族に抱っこかよっ!!」
 馬っ鹿じゃねーの!!とティアを押しのけアシュレイが怒鳴る。
 そんなアシュレイを見ながら「ガキの姿でティアに抱っこされてたのは何処の誰だか・・・」と柢王は心でつぶやく。
 数日前、子供姿のアシュレイがティアに抱かれているのを偶然目撃した。実はそれに触発されたのが今回の真相だったりする。
 龍鳥に変化したのは子供姿など曝せば後々まで桂花にからかわれるのが必衰だったからで・・・だが、それが功を奏し「常々、桂花に抱かれている冰玉が羨ましかった」という苦しげながらの言い訳ができた。
 とにかくアシュレイには隠し通さねば。バレたら即焼死だ。
 それにアシュレイの二番煎じと桂花にバレるのもマズイ。
 柢王の頭で様々な思考が飛び交う。
「―――――!!」
 ティアが息を詰めた。
 ・・・分かった・・・分かってしまった。
 ティアは怨みの視線を柢王にむける。
 軽く受け止め柢王はニヤリと笑う。
 ―――確信だ・・・。ともかく!!
 柢王を責めるのは後に。先に回避すべく問題へとティアは頭を切り替えた。
 アシュレイに隠し通すべく術。
 身の危険防止と接触禁止令防止。動機は違うものの結論を同じくした二人に秘密協定が組まれた。
「知ってたんだろ?」
 前置きのないアシュレイの言葉に柢王とティアは凍りつく。
 バ、バレたかっ!!?
「なんのことだ?」
 それでも気丈に柢王はシラをきる。
 けれどもアシュレイは感じ取っていた。柢王の動揺を。
 アシュレイは確信し、柢王を強く睨みつける。
「だから柢王!!おまえ冰玉が出てったのに気づいてたんだろ!?って言ってんだ」
「・・・・・はぁ・・・・・」
 柢王とティアは一気に脱力する。
 ま、それなりに鋭い指摘なのだが・・・。
「あ、バレた?いや〜軽い悪戯だったんだ。まさか冰玉がこんな傷つくと思ってなかし〜。反省してるって」
 素早く頭を切り替え柢王は矛先をそちらに向けた。その横で疲労に押しつぶされたティアはとうとう、しゃがみこんでしまった。
「ティア!!」
 駆け寄ったアシュレイの腕を掴みティアはゲッソリと柢王を見上げた。
「いいから。もういいか早く冰玉の誤解を解いでやってくれ」
 ティアの言葉に頷き「悪かったな」と柢王は片手で二人に謝罪を示し背を向けた。
「二度と馬鹿なことすんなよ!!」
その背にアシュレイの檄が飛ぶ。
 まさか自分が柢王を刺激したなど露とも思わず。
「なら二度と見せんなっ」
「柢王!!」
 ため息交じの柢王のボヤキは咄嗟に発しられたティアの声に打ち消された。
「ヘイヘイ沈黙は金なり・・・っと」
 肩をすくめ柢王は扉を後にした。

 柢王の姿が消えるとアシュレイはグイッとティアを引き寄せ抱きしめた。
「アシュレイ!?」
「・・・疲れすぎた」
 疲労の原因を違えているものの、アシュレイが甘やかしてくれるのが嬉しくティアは全身をゆだねる。
 少し高めのアシュレイの体温が気持ちいい。
 ティアはそっと目を閉じた。
 そのまま二人は黙りこむ。
 二人の体温が解け合った頃、アシュレイがポツリとつぶやいた。
「あいつも・・・柢王も疲れてんのかな?」
「ん?」
「いや、あいつの泣き言って聞いたことねーからさ」
「そうだね〜」
 相槌を打ちながらティアは思う。
 確かに今回の柢王は変だ。普段の柢王なら「される」より「する」を選ぶだろうに。
 けれど・・・。けれどティアは確信していた。アシュレイの温もりを感じながら。
「大丈夫。疲れはすべて吹き飛んだはずだから」
 最上の笑みを浮かべ言い切った。

〜後日談〜

 桂花は窓枠に落ちていた赤い実から冰玉の傷心を察した。
 それを柢王が黙秘していたことも・・・。
「勘弁してくれよ〜」
「ダメです」
「ぴい」
 その後、しばらく東端の小さな家の夜は『川』の字ですごされた・・・とか。


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