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投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3

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No.91 (2007/02/27 15:26) title:応報
Name: (p129080.ppp.dion.ne.jp)

「そうだ、これお前にやるよ」
「なに?」
 つき出された柢王の手のひらを見ると小さな小ビンが転がっていて、その中には真珠のような粒がふたつ入っていた。
「桂花がつくった、本音を言っちまう薬だ。兄貴たちにイタズラで使ってやろうと思ってたんだけどな、そんな事してる場合じゃなくなったからさ」
 柢王は決めてしまった。魔風屈へ行くことを。
「・・・・そんなのいらないよ、誰に使えって言うんだ」
「や、別にうちの兄貴らでもいいし、ここの奴らとかにでもいいし。怪しい行動してる奴に飲ませりゃ即効、一発だぜ?なぁに、そんな深刻になるほどのモンじゃねーよ。相手の本音が聞けるってだけの話」
「誰かに使ったの?」
「俺自身。も〜桂花に迫って迫って仕事ほったらかして一日中あいつのこと貪った」
「むさ・・・よく桂花がゆるしたね」
「試しに桂花に飲ませようとしたら、絶対イヤだって言うから、じゃあ俺が飲むって――――自分が飲まされるよりはマシだと思ったんだろ。実際の効果は1時間も続かないけど後は畳み掛けってやつで。おかげで次の日は立てないって怒られたけどな♪」
「――――楽しそうだね・・・・それじゃあ、一応もらっておくよ」
「飲物に混ぜりゃ絶対わかんねーよ。においも味も無いからな」

 ・・・・・あれから柢王はどうしているだろう。遠見鏡でも見ることが叶わない魔風窟へ行き、彼はたった一人で共生を成功させようと頑張っている。いつも助けてもらってばかりなのに彼が大変な時に手助けできないことがもどかしい。
 やらねばならないことは次から次へと増えていくが、心配事がありすぎてやる気が出ない。
『この机の書類を全部片づけ、これから先絶対に仕事を溜め込まないと誓えば、お前の中で渦巻いているすべての不安を取り除いてやろう』―――――とでもいうのならためらわずに誓おう。でも・・・・誰がそんな保証をしてくれるというのだ。
 柢王のことを考えると、心配で不安で気分が重くなる。ティアは引き出しから出した小ビンを手にとった。
「まるで真珠そのものだね」
 透かして見ていたら扉がノックされ、応えると使い女が入室してきた。
「若様、お茶の支度が整いましたと桂花さまが・・・」
「分かった」
 最近の楽しみは、アシュレイと桂花と三人でお茶を飲むこと。二人との休憩時間は心だけでなく目の保養にもなる。
(でも・・・・あの二人、最近は言い争いとか全然しなくなったけど、よそよそしいって言うか遠慮してるんだよね。お互いのこと、とっくに認めてるくせに・・・・これを飲ませたらどうなるんだろう。ケンカ・・・にはならないよね、もう)
 魔がさしたとしか言いようがない。恋人や親友にこんなものを飲ませるなんて・・・・ティアはその小ビンを忍ばせると執務室を後にした。

 アシュレイが選ぶ菓子を次々と取り分けてやっている桂花。その隙をついてティアは薬をすばやくカップに落とした。真珠の玉はあっという間にとけこんで、お茶の色も特に変わらない。
 早鐘を打つとはまさにこういう事。胸を押さえて、ティアは二人の方をチラチラと見る。気づいていないようだ。
「ティアも食えよ、これスッゲーうまい」
「あ、うん、いただこうかな」
 ティアが焼き菓子に手を伸ばしたその時、桂花がカップに口をつけた。
「あっ!」
「・・・・どうなさいました?」
 一口含んでカップを皿に戻すと桂花がティアのほうに向きなおる。
「いや、なんでもない、お、美味しいなって思って」
 まだ食べていなかった焼き菓子をあわてて口に放り込んでムリな言い訳をする。
「――――そうですか、たくさん召し上がってください」
 にこりと微笑んで、桂花はポットに手をかけた。見れば、いつの間にかアシュレイはお茶を飲み干していたのだ。
(二人とも飲んじゃった!)
 自分が仕掛けたくせに、手がふるえそうだ。八紫仙や各国の王を相手にしても毅然とした態度を貫くティアだが、アシュレイと桂花・・・どちらも怒らせたら怖いことを知っているだけに、恐ろしい。
 今になって、この二人相手になんという事をしてしまったのだろう・・・と後悔先に立たずだ。
 ティアはまだ熱いお茶をふぅふぅと冷まし、いっきに飲むとおもむろに席を立つ。
「用事を思い出した。ごめんね、二人はゆっくりしてて」
 優雅に歩いていって扉を閉めると、モーレツダッシュで廊下を駆け抜ける。
(うわーうわーっ!危なかった〜。桂花なんて不審な目で見てたものっ!すごいスリルだよ柢王〜っっ)
 とても間近でなんて見ていられない。ティアは息を切らし執務室へ飛びこむと、すぐに遠見鏡へかじりついた。
 桂花と向かいあって、彼のいれたお茶を飲むアシュレイ。
「こんな日が来るとはね・・・・・」
 ティアは目頭を押さえつぶやく。
「柢王にも早く見せてあげたいよ・・・」
 
『うまいな、このお茶も』
『体を動かした後は特にお勧めなんですよ。疲労回復を助ける働きがあるんです・・・早朝から出かけていらしたようでしたから』
『気づいてたのか・・・それにしても、お前って本当に気がきくな。柢王がいつも自慢してたの、分かる』
『・・・おかわりいかがです?』
『もらう―――前から思ってたけどお前の目って宝石みたいだよな』
『・・・宝石・・・ですか?』
 柢王には、よく紫水晶にたとえられるこの瞳。まさかアシュレイにそんなことを言われるとは思わず、一瞬の間があく。
『なんか、中心の濃い紫とその回りのうすい紫が光に当たると透き通ってキラキラしてすげぇ綺麗なんだよな。前にティアが言ってたけど、本物の宝石は冷たいらしいぜ。だから尚更お前の目は宝石みたいだ』
 魔族は誉められることが特に好きだ。そこへきて、ムダなおべっかなど決して使わないアシュレイに褒められるとなるとなおさら気分がいい。
『吾の目は冷たいですか?』
 くすりと笑って桂花は続ける。
『あなたの瞳こそ、ですよ。澄んでいるのに燃えているような瞳・・・守天殿の仰る“冷たさ”はありませんが、まるで上等な宝石のように美しい』
 いつもティアに囁かれているような文句を桂花に言われ、アシュレイはなんだか落ち着かず口を開く。
『そ、それに、その髪も、サラサラで・・・・前から触ってみたかった』
『どうぞ?』
『いいのか?』
 柢王ごめん!と何故か心中で謝りをいれながらアシュレイはそっと髪に触れる。
『ぅわ、なんだこれ。ティアの髪も触り心地いいけど、あいつのより少し長い分よけいに気持ちいいかも』
『そうですか?』
 何度も上下するアシュレイの手に撫でられているうちに、桂花はうっとりと目を閉じた。
『ずいぶん・・・優しく撫でるんですね・・・あなたに身を委ねる動物たちの気持ちが分かる気がしますよ』
 瞳を開け至近距離でまっすぐ見つめてくる魔族の美貌にあてられ、アシュレイは咳払いをしてお茶を飲んだ。

「ふぅん・・・・・ずいぶん効きが良いんだねぇ、あの薬・・・・」
 にわかに雲行があやしくなってきた遠見鏡の中の二人にティアの視線がきつくなる。
 また思いっきり髪を伸ばしてやろうかと思いながらティアは遠見鏡を消した。
「・・・・・・・。私も戻ろっ」
 本音を言い合う二人の様子を見てれば一目瞭然、ただの誉めちぎり大会ではないか。それならこの機会に、普段あまり誉めてくれない恋人や優秀な秘書に、誉められない手はないだろう。
 ティアは急いで二人の元へと向かった。ウキウキしながら廊下を曲がると、桂花とバッタリ出会う。
「あれ?桂花・・・・・お茶の時間はもうおしまい?」
「ええ、守天殿が執務に戻られたのに吾がいつまでも休んでいては」
「仕事なんかしてないよ?」
 ――――――――――余計なことを言った、と後悔したのは、先刻さんざんアシュレイに褒められた紫水晶がすぅっと細くなったから。ティアはあわてて付け足した。
「もう少し休んで?ね、いつも働きすぎだよ桂花は」
「・・・・・守天殿。吾を気づかって下さるのなら仕事を溜めないで頂けるのが一番です、では。―――――― もう何度も言ってることなのに・・・」
 辞儀した桂花は、すれ違いざまボソリとつぶやき、ためいきをつきながら執務室の方へと歩いて行く。
 美貌の魔族の背を、呆然と見送るティアに背後からアシュレイが声をかけた。
「なにボケッとつっ立ってンだ?」
「アシュレイ!」
 すぐに立ち直って恋人の肩に手をかけようとしたら・・・・
「よせって!こんないつ使い女が来るかもしれないとこで、くっつくなよ。お前のそういうとこ、ヤダ!」
『ヤダ』「ヤダ」ヤダ・・・脳に直撃した言葉が反響し、固まってしまったティアを置いてアシュレイは桂花の後を追うかのように行ってしまう。
「・・・・・私に対する二人の本音って・・・」
 いつも言われて聞きなれている言葉のはずなのに、今日は特別ティアの心に深く突き刺さったことを、二人は知らない。


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