投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3
―――――――光?
覚醒は突然だった。
私は―――ティア。ティアランディア・フェイ・ギ・エメロード。
気づいた時は守護主天という任についていた。
赤子の思考は徐々に育っていくものだと聞く。
だが私は違う。
必要な思考は既に身についていた。
作られたものだから?
だが組み込まれなかった事柄は、時と共に分かってきた。
『道草しないで帰るよういったでしょ!!』
『―――――』
『母さんは、母さんハッ・・・』
『―――ウワァーン!!ごめんなさい』
―――なんで、あの大人はあんなに怒るんだろう?―――
遠見鏡をのぞき不思議に思う。
だが次の瞬間、胸が熱くなる。
ギュッと子供を胸に抱きしめる母親の姿。
―――あれは?―――
―――ああ、そうか、あれが肉親というものなのだろう―――
手をつなぎ帰途する二人の姿は脳裏に色濃く焼きついた。
『守天さま、ごきげんよう。お茶はいかがですか?』
『守天さま、どうぞお先にお使いください』
『寒くありませんか?』
天主塔から出て、通うようになった文殊塾。
そこでは皆、優しくしてくれた。
『あなた様は特別な方ですから』
『誰も傷つけることができないのです』
特別だから?・・・同情?・・・哀れみ?・・・
私だけ、私は異種人種?
魔族に仲間意識があるとは思わないが、時に羨ましく思う。
『あれで男かよっ』
『仕方ないよ、守護主天さまなんだから』
『あたらず、さわらずが一番さ』
年を重ねるうち耳にする陰口。だが面と向って言ってくる者はなかった。
いや、一人だけ、彼だけだった。
『やい!ティアランディアってどいつだ』
アシュレイ。彼の存在は曇った空に射す一筋の光ように鮮明だった。
彼は身をもって私に自信をくれた。
シュラムによって蝕まれた肉体、毒素。この御印付きの力でなければ救うことはできなかっただろう。
愛するもの、大切なものを救えた喜び。
はじめて我が身の存在を肯定できた。
―――よかった、よかった。守護主天でよかった―――
二つ年上の親友は巧みな言葉でもって私に自信をくれた。
『おまえの口添えがあったから、おまえの援護射撃のおかげで今の俺たちがあるんだ』
蓋天城を飛び出し、桂花と二人で暮らすようになった柢王はそう笑った。
『大変なことは、すべて御印のせいにしちまえ』
『おまえはもっと、我儘言っていいぞ。我慢なんかするな。自分の意見を通して道を作れ。まわりになんか言われたら、結果なんかすぐ出るわけないだろって言い返せ』
最後まで心配してくれた。
その親友は、もういない。
魂は転生した。だか、それは柢王ではない。
アシュレイも自分の道を見出した。
おまえの為に王になる―――と。
私はどうしたらいい?
繰り返し続く山凍殿との関係。翌日には跡形もなく消える記憶。
だが身体は忘れない。消えず幾重にも積もっていく。
私はそう長くないだろう。
歴代の守護主天がそうだったように。
私には転生などない。心も身体も次代へと再生されるだけのもの。
誰の記憶に残ることもなく、すべてのものから忘れ去れ、すべてのものから。
アシュレイっ、アシュレイにも?
いやだ、それはいやだ。
忘れないで―――
ずっと愛してる。
『虜石を握らせようか』
誰?―――私?―――私の本心か?
この醜い心、逝ってしまった親友が知ったらどう思うだろう。
朽ちていく、朽ち果てて・・・
助けて―――
―――誰、私を呼ぶのは誰?
ティアランディア
我が兄弟よ
悲しまないで我らがいる
いつまでも我らが見護っているよ
兄弟よ、やらねばならぬことは、まだある
それが我ら守護主天に果せられた使命だから
Powered by T-Note Ver.3.21 |