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投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3

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No.40 (2006/11/09 14:50) title:八仙抄
Name:しおみ (148.101.99.219.ap.yournet.ne.jp)


 突然じゃが、わしの名前は紫仙一号。むろん仮名じゃ。天界の所司であり、守天様の補佐を勤める八紫仙のひとりじゃ。
本名は別にあるのじゃが、わしら八紫仙は常にチームワークで働いておる。わしだけ抜け駆けするわけにはゆかぬので、一号様と呼んでよろしい。
 ときに諸君らは、わしらの姿を見たことがあると思うが、わしらは常に官位にふさわしい装束に身を包み、顔も隠しておる。重大任務ゆえ、顔を隠すのは慣例じゃ。決して不細工だから隠しておるのではないぞっ。
 先日、天界瓦版にそのようなでたらめが噂されておったが、本当のわしの顔ときたら、花街に飾れば客が引きもきらぬほどの男前じゃ。本当じゃぞ。
 八紫仙は尊い役目ゆえ、多少の神秘性は不可欠なのじゃ。わしを含め、みんな尊い生まれで教養もぴか一じゃ。わしの身元なぞ、明かせば諸君らは平伏するのに違いない。
 断っておくが、わしが『じゃ』と話すのは八紫仙テキストの威厳ある話し方講座に則ってのことじゃ。年寄りだからではないぞっ。広島県人だからでもないぞっ、よいなっ。
 おお、すまぬ、話がそれてしまったわい。今日はの、諸君らに、よいものを見せて進ぜようと思ったのじゃった。
 改装中の蔵書室の棚の上から見つかったという書物を、蔵書係りのナセル・ノースがわしのところへ持ってきたのじゃ。あの若者はよう働く上に気配りがあってよいのぅ。指圧が上手いのがますますよい。
 いや、そのようなことはよいが、その書物というのが聞いて驚くでない、われらが歴代八紫仙による『守天様日誌』じゃ──ここは驚くところじゃ、なぜ驚かんっ。
 驚いたか? よし。わしら八紫仙は守天様のおそばにお仕えしておるので、誰より守天様のご様子に通じておる。
業務が速やかに行われるように、毎日の日誌も欠かさぬのじゃ。それをある程度まとめて清書したのがこの『守天様日誌』じゃ。
 なになに、天主塔の事は門外不出では、とな? 確かにそうじゃ。特に先代以前の守天様の事は口に出してはならぬのが天界の不文律じゃ。
 とはいえ、わしら高貴な八紫仙が高貴な守天様のためにつづった日誌なのじゃぞ。わしら八紫仙の教養と職務への厳格さのつまった日誌なのじゃ。ぜひにと乞われればむげには断れぬ。これは文化遺産じゃからの。読みたいであろうの。読んでみたいであろう?
 うむ、そこまで請うのならば仕方あるまいの。では、ひそかに諸君らにその一部分を見せて進ぜよう。なに、一号様って男前で太っ腹だとな。
いやなに、そのような世辞は百万回聞いても厭きぬが、先に進まねばらぬゆえの。世辞は後でも構わぬぞ。
 これはずいぶん古ぼけておる、いやいや歴史ある日誌じゃ。わしの先代の先代の先代の先々代あたりから書かれておるゆえな。残念ながら今生の守天様の事は書かれてはおらぬが、いずれわしらが『若様日誌』をお作り申し上げるゆえ、諸君らは案じずともよいぞ。
 飾り文字で『八仙抄』とな。うーむ、表紙も立派じゃ。実のところ、わしもこの日誌を読むのは今日が初めてなのじゃ。昨夜発見されたゆえな。じゃからわしも諸君ら同様、歴代の八紫仙の英知への期待に心が躍っておる。
 それでは、ページをめくるぞ。げほげほ。埃っぽいのぅ。
『これはわれら八紫仙の日誌の総括である。責任重き役職なれば赤裸々に真実を語りたる。なれどゆめゆめ守天様のお目には触れぬよう、しかと管理するがよろし』
 うむ、この心構え。これぞ、八紫仙じゃっ。
 おお、まず初めは守天様の『座右の銘』とな。うむうむ。天界・人間界を統べる尊い方ゆえ、『座右の銘』くらいあるのが当然じゃ。
守天様の御名も記されてはおるが、諸君らには必要ないゆえ、それは明かさぬ事にしよう。
 ではまず最初のひと方じゃ。
『堅牢堅固』
 うむ? よくはわからぬが、きっと堅い巌のような志を持って職務に尽くすというお心の表れじゃな。次じゃ。
『空前絶後』
 こ、これはきっとこれまでにない立派な守天様になられようというご決意に違いない。次じゃ。
『ノブレス・オブリージュ』
 おお、これぞ守天様じゃ。尊い身の義務ということじゃなっ。なれど、なにゆえフランス語かのう? それも時代先取りじゃ。まあよい、きっとこのようなすばらしいお言葉が続くであろう、次じゃ。
『世界はわたしのためにある』
 うむ? これはきっと書き間違えであろう。守天様は世界の護り手じゃ。世界のために守天様があられるのじゃからの。次はどうじゃ。
『さっくりさくさく万事てきとー』
 ・・・・・・。
 諸君、『座右の銘』には充分感銘を受けたじゃろう。次の項目はの、おお、なんと、守天様の日常生活じゃ。歴代紫仙も登場しおるぞ。では。
『×月×日 紫仙一号』
 おお、わしと同じく一号様じゃ。ありがたく拝見するとよいぞ。

『本日、執務室にて守天様が窓を開け放し、風を入れておいでだった。しかし、お机の上の書類が飛んでしまうため、わたくしがお閉めしようとすると、
『ああ、そこの線、踏まないように。そこがボーダーラインだから』
 みれば床に線がかかれてある。思わず、これは何かと伺うと、守天様はお笑いになりおっしゃった。
『風でその線まで飛んだら重要、そうでないものは却下』
 諸君。この件にはいかが対応すべきか』
 
 ごんっ。
 こ、これも何かの間違いじゃっ。
『×月×日 紫仙三号』
 今度こそは間違いなかろう。

『本日、守天様にはご機嫌麗しからず。わたくしが四国視察についてご意見を伺うと、
『外交は政治家に任せる』
とのお返事であった。諸君、これについていかがお答えするべきか』
『紫仙二号の回答 東領では舟遊び、南領では温泉があるとお伝えせよ』
『紫仙三号の回答 快くお引き受けくださった』。
 
 なっ、なにごとか、これはっ。天界に政治家などおらぬと誰もお教えしておらぬのかっ。なにっ、次こそはっ。
『×月×日 紫仙四号 《重要》』
 おお、何か重大事件が起きたのかっ、諸君、歴史的新事実に出会えるかもしれぬぞっっ。

『本日、守天様がふいにお尋ねになられた。
『おまえたちはなぜ八人もいるのだ?』
 わたくしが、わたくしたちはそれは重要な役職で、様様な事に気を配らねばならぬゆえでございますと申し上げると、守天様は身も凍るような視線でわたくしをご覧になられた。
『世界はわたしが動かしているのに?』
 諸君、すばやい回答を乞うっ』

 なななんということじゃ、無回答とはひどすぎるっっっ。

 う、ううむ、どうもわしが予測した日誌とはいささか様相が異なるようじゃが、歴史ある日誌ゆえの、ジェネレーション・ギャップというのもあるのであろう。次は──おお、守天様の個人情報じゃ。なになにお好きなお色とな。
『黄色』
 うむ、天界で最も高貴なお色じゃ。守天様と閻魔様しかお召しになられぬのじゃぞ。
『グレイ』
 これもシックじゃの。理由もかかれてあるぞ。『世の中灰色』。次じゃ。
『限りなく透明に近いシアン・ブルー』
 よ、よくわからぬが、シアン・ブルーとは青酸カリとかいう薬の色じゃのぅ。
『パールグレイッシュ・ローズマイカ』
 それはどこの車じゃっっっ。

 うぉほん。
 諸君、この日誌の内容が計り知れぬほどに奥深いことが、多少触れただけとは言えよくわかったことじゃろう。このようにわしら八紫仙の役割は、諸君らの想像もつかぬほどに深く尊いのじゃ。
 この日誌の続きには、守天様のお好きな音楽、お好きな食べ物を初めとして、『守天様の天気予報』『守天様占い』『今日の守天様』など情報盛りだくさんなのじゃが、わしも忙しい身じゃ、職務に戻らねばならぬ。続きが読みたいのであれば、ファンレターは天主塔気付で遠慮なく送るがよい。
 じゃがくれぐれも、この日誌の内容は外にはばらさぬようにのっ。ことに守天様には絶対にばらしてはならぬぞっ。よいなっ、約束じゃからなっ。
 それではわしは職務に戻る。
 諸君、よい週末を〜、じゃ。


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